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アシスタントで来ただけなのに…!

第1章 鬼才漫画家、市川ルイ



決意はしたものの、不安がない訳ではなかった。
母が仕事に行った後のリビングで私は寝巻きのまま、砂糖を入れた珈琲と市川ルイの住所等が書かれた紙と先程の地図を並べてにらめっこ。

とりあえずスマホを片手に書面に書かれたアドレスにメールを送ろうか迷うこと数十分。
珈琲に口をつける余裕もなくとっくに冷めているだろう。ブラックが飲めないから砂糖を入れてるが、きっと底に溜まってしまっている。

「あ、そうだ!」

ピンと閃き、Webサイトを開いた。
そこからパソコンメールにアクセスし、普段使ってないメールアドレスから市川ルイ宛にメールを送ることにした。

「これなら、いたずらでも詐欺でもすぐに削除できるし大丈夫!」

安心した勢いで、そのまま初めましての挨拶から軽い自己紹介を打ち込む。
市川ルイの読者だとはできるだけ悟られないように、丁寧に文を選んだ。

「日時はいつか、よしこれでいいかな」

失礼の無い文だと再度確認して、送信ボタンを押す。

送信中のバーが出てきて喉元が熱くなった。
遂に、遂にあの市川ルイと繋がれた。
まだ確信はないがきっとあの人だ。私は謎の自信に溢れていた。

「…よし。後は待つだけ」

高鳴る胸を両手で抑えながら宙を見上げた。
嗚呼、怖い!怖すぎる。今自分が憧れの漫画家と繋がれた現実とその漫画家の元でアシスタントとして働けるこの状況が。

「幸せだ…本当に私幸せだ」

震える手でカップに手を伸ばす。
やっと飲めた珈琲はやはり冷たかったし、砂糖も混ざりきってなくて苦かった。
でもそんなのは今の私は気にしなかった。なんなら今ならブラックも飲めると思う。

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