
おばけトンネルとお姉ちゃん
第1章 おばけがいるのよ
俺は姉貴の顔だけを見ながら言った。
「おばけがいるのよ」
怖がっている様子ではなかった。むしろ、呆れているように見えた。だから極度の怖がりである俺も「は? おばけ?」とまったく信じる気にはなれなかった。
「そう。おばけ。飛んできたんだと思う」
「飛ぶ?」
別の意味で怖くなった。普段の姉貴は絶対にこんなことを言わない。この人は子供のころからどこか醒めていて、意地悪なところがあって、人を食ったような言い方もする。
だから姉貴が「おばけが飛んできた」と真顔で言い出したときは、刺青のおじさんのようにお酒でも飲んでいるのかと疑ったほどだ。
「飛んできたって、どこから?」俺は聞いた。
「うーん。わかんない。この辺だと、おばけトンネルかな」
おばけトンネルは、かの有名な心霊スポット……などではない。地元の人のみぞ知る心霊スポットでもない。
強いていえば、このあたりの怖い場所は虹橋だ。橋から川までは高さが五十メートルほどあり、下は急流のため、自殺の名所と呼ばれている。実際、俺が小学生のとき、虹橋から飛び込んだ女性の遺体が川で発見されたこともあった。
一方で、おばけトンネルは虹橋の近くにある、かつては集落の人々の生活道路として使われていた手掘りの廃トンネルだ。
幅も高さも二メートルほどしかなく、距離も三十メートルほどしかない。
戦時中は防空壕として使われていたなんて話もあるが定かでない。ただ、昼間でもうっそうと木々の茂った廃道に存在するため、何か出そうな雰囲気はある。
だから地元の子供たちのあいだで「おばけトンネル」と呼ばれているのだが、過去に自殺や事故があったわけでもない。要は、雰囲気が怖いだけのトンネルなのだ。
「いや、だって。おばけトンネルは、子供の勝手な……妄想」
俺が説明しているにもかかわらず姉貴はずかずかと歩み寄ってきて、「怖いのよ。ちょっとどいて」と、布団に潜り込もうとしてきた。
突然のことに俺は固まった。
「もう少し横にずれてよ」
姉貴は布団の真ん中で寝ていた俺を押しのけようとしてきた。中三の俺の男臭い万年床に、姉貴の桃のような匂いが一気に立ちこめた。
「ちょっとやめろって。自分の部屋で寝ろよ」
「じゃあ、あんたが私のベッドで寝てよ」
「おばけがいるのよ」
怖がっている様子ではなかった。むしろ、呆れているように見えた。だから極度の怖がりである俺も「は? おばけ?」とまったく信じる気にはなれなかった。
「そう。おばけ。飛んできたんだと思う」
「飛ぶ?」
別の意味で怖くなった。普段の姉貴は絶対にこんなことを言わない。この人は子供のころからどこか醒めていて、意地悪なところがあって、人を食ったような言い方もする。
だから姉貴が「おばけが飛んできた」と真顔で言い出したときは、刺青のおじさんのようにお酒でも飲んでいるのかと疑ったほどだ。
「飛んできたって、どこから?」俺は聞いた。
「うーん。わかんない。この辺だと、おばけトンネルかな」
おばけトンネルは、かの有名な心霊スポット……などではない。地元の人のみぞ知る心霊スポットでもない。
強いていえば、このあたりの怖い場所は虹橋だ。橋から川までは高さが五十メートルほどあり、下は急流のため、自殺の名所と呼ばれている。実際、俺が小学生のとき、虹橋から飛び込んだ女性の遺体が川で発見されたこともあった。
一方で、おばけトンネルは虹橋の近くにある、かつては集落の人々の生活道路として使われていた手掘りの廃トンネルだ。
幅も高さも二メートルほどしかなく、距離も三十メートルほどしかない。
戦時中は防空壕として使われていたなんて話もあるが定かでない。ただ、昼間でもうっそうと木々の茂った廃道に存在するため、何か出そうな雰囲気はある。
だから地元の子供たちのあいだで「おばけトンネル」と呼ばれているのだが、過去に自殺や事故があったわけでもない。要は、雰囲気が怖いだけのトンネルなのだ。
「いや、だって。おばけトンネルは、子供の勝手な……妄想」
俺が説明しているにもかかわらず姉貴はずかずかと歩み寄ってきて、「怖いのよ。ちょっとどいて」と、布団に潜り込もうとしてきた。
突然のことに俺は固まった。
「もう少し横にずれてよ」
姉貴は布団の真ん中で寝ていた俺を押しのけようとしてきた。中三の俺の男臭い万年床に、姉貴の桃のような匂いが一気に立ちこめた。
「ちょっとやめろって。自分の部屋で寝ろよ」
「じゃあ、あんたが私のベッドで寝てよ」

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