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おばけトンネルとお姉ちゃん

第1章 おばけがいるのよ

 そういえば刺青のおじさんが同じ屋根の下で暮らし始めたことについても、おふくろからは何の説明もなかった。気づいた時には刺青のおじさんは朝の食卓にいて、昼間からずっと家でお酒を飲んでいて、夕方、一番風呂に入ったあとはテレビの前でまたビールを飲みながら野球中継を見ているのが日常の光景となっていた。
「ねえ、お母さんって変だと思わない?」
 そのころから姉貴は俺の部屋へ頻繁にやってきて、時間を潰すようになっていた。
「変?」
「うん。ずっと思っていたんだけど、なんていうか。精神的にちょっとヤバいんじゃないかと思うのよね」
「なんだよ、それ。頭がイカれているってこと?」
「そこまでは言ってないよ。ただね、普通、母親って、子供のことを一番に考えると思うの。でも、お母さんって……自分のことしか考えていないよね?」
 漫画を読みながら話しかけてきた姉貴だったが、途中からはじっと俺の顔を見て、苛立ったような口調で言った。
「うーん。そうかなぁ。お母さんもいろいろと考えてくれているとは思うけど」
 宿題はしたの? とか、出かけるときは車に気を付けなさいよ、とか声をかけてくれるからだ。
「考えていたとしても、あの人は……根本的に、子供への愛情が薄いんだと思う!」
 姉貴が珍しく声を荒げたので、俺はどうしたんだろう、と不思議に思ったものだ。
 だけど、すべて姉貴の言う通りだった。
 俺がそのことに気づいた時には、もうすべてが終わっていた。なぜもっと早く気づけなかったのか。俺がいまでも一番後悔していることだ。



──おばけがいるのよ。
 今から思えば、あのときすでに姉貴は壊れていたのだ。
 俺と姉貴が一線を越えたのは、今年の春だった。俺は中学三年生になり、その夜も受験勉強とは名ばかりの夜更かしで、深夜ラジオを聞いていた。そろそろ寝ようと部屋の電気を消して、布団に入ったところでドアをノックされた。誰~? 姉貴? ドアに向かって言うと、やっぱり姉貴が入ってきた。
 俺は思わず姉貴から目を逸らした。弟の前だからといって、その恰好はないだろう。まだ春先で、夜は肌寒い。姉貴は長袖のトレーナーだったが、ズボンを穿いていなかった。トレーナーの丈の長さで隠れてはいるものの下着しか穿いておらず、中学・高校と陸上をやっている、スラリと長くて、無駄な贅肉のない生足を露出させていた。
「どうしたの?」

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