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おばけトンネルとお姉ちゃん

第1章 おばけがいるのよ

 姉貴も姉貴だ。さっきまで弟の前で両脚を広げて、涙目で喘いでいたのが嘘のように、冷たく言い放つ。
 姉貴が出て行ったあと、俺は自分の枕に顔を埋めた。姉貴の髪の匂いが残っている。あれだけ激しく動いたのだから、姉貴の発情した時の汗の匂いもこもっていた。
 自分の指の匂いも嗅いだ。そこには甘酸っぱい愛液の匂いがまだ付着していた。
 あぁ、お姉ちゃん──。



「刺青のおじさん」が、山間の農村にある小さな我が家に住み始めたのは昨年の夏、正確にいうと一九八九年の七月からだ。俺は十四歳で、姉貴は十六歳だった。その少し前から、おふくろが刺青のおじさんをお客さんとして連れてきていたから顔は知っていたし、姉貴なんかは「あの人、うちに住むかもしれないわ」とこっそり俺に愚痴っぽくこぼしていた。
 背中と肩に龍の和彫りが入ったおじさんは、五十代半ばで、顔がギトギトしていた。身長は百八十センチ以上あって、横幅もでかく、お腹も出ていた。夏場はランニングシャツにステテコで、いつも煙草を咥えていた。銘柄はハイライトだった。
 姉貴は最初から刺青のおじさんを嫌っていた。
 俺は逆で、うちに来るたび、「よお。裕太、プラモデル買ってきてやったぞ」とか「この前欲しいっていってたファミコンのゲーム、手に入れたぞ。欲しいか~?」などと、強面のわりには気の良いおじさんだったので、「ありがとうございます!」と素直に喜んでいた。
 姉貴もずっと欲しがっていた大きなクマのぬいぐるみや、発売されたばかりのゲームボーイをプレゼントされていたが、
「ありがとうございます……」
 と笑顔一つ見せず、まるで人見知りする子供のように、目を合わせようともしなかった。
「私が欲しがっているものをお母さんがあの人に教えているのよ。もう、お母さんには、何も言わないようにするわ」
 姉貴は俺にこう言っていたが、クマのぬいぐるみとは一緒に寝ていたし、居間で寝そべりながらゲームボーイも楽しそうにやっていた。刺青のおじさんのことは嫌いでも、もらい物には罪が無いということか。

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