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君の体温は義務だった

第4章 接続

文書の最後まで書き終えた。
画面の端で、黒いカーソルが点滅している。

その明滅を、しばらく無言で見つめていた。

ファイルを保存する。
表示されたタイトルを確かめる。

『HUG+孤独死予防システムにおける数値化の限界について』

……やっぱり硬い。
もう少し読みやすい工夫はできなかったのかと思う。
けれど、これ以上表現を柔らかくしてしまうと、レポートではなくただの日記になってしまいそうだった。

俺は一度、最初からスクロールして読み直した。

心拍数。
体温。
睡眠。
活動量。
ストレス。
呼吸。
会話時間。
孤独率。

HUG+がリアルタイムで取得している数値を、一つずつ並べていく。

数字そのものが間違っているわけじゃない。
心拍数が正常なら、正常だ。
睡眠時間が六時間なら、六時間。
会話時間が十三分なら、十三分。
どれも客観的な事実であり、嘘ではない。

問題なのは。
その整然とした数字を見て、システムも人間も「この人は大丈夫だ」と簡単に結論づけてしまうことなのだ。

俺は昨日の事例データを思い出す。

十分な人間関係が存在していた。
会話も交わしていた。
定期的に誰かとメッセージのやり取りを行っていた。
健康状態にも、目立った異常値は出なかった。

それなのに。
その人は、一人で死んでいた。

数字は、嘘をついていなかった。
だからこそ――心底、恐ろしかった。

俺はレポートの最後の段落に視線を落とす。

『HUG+は、人間の状態を数値化することで、これまで可視化できなかった危険を早期に発見してきた。
しかし、数値化されたデータが、その人間の精神状態のすべてを証明しているわけではない。
データが正常値であることと、その人物が孤独ではないことは同義ではない。』

その下に書き加えた、もう一行。

『数値によって見えるものを増やすことだけに固執せず、数値からどうしても零れ落ちてしまうものが存在すること自体を、システムの側が認識する必要がある。』

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