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君の体温は義務だった

第4章 接続

「……じゃあ。」

俺は静かな部屋で呟く。

「どうすればいいんだよ。」

高瀬部長の言葉が、脳裏でリフレインする。

――次は、その「別の方法」を考えてみてください。

「……無茶言うなよな。」

一人で苦笑する。
けれど――嫌な気はしなかった。
むしろ、ほんの少しだけ胸が躍るような感覚すらあった。

その時。
何気なく窓の外へ目をやった。

夜の歩道を、街灯の光を浴びながら人が歩いている。
一人。二人。三人。

その人波の中に。
一瞬だけ――見覚えのある、あの柔らかい髪の影が見えた気がした。

「……。」

ソファから立ち上がり、窓辺へ寄る。
目を凝らして夜の街を見下ろす。

けれど。
もうそこには誰もいない。ただの街灯の光が落ちているだけだ。

気のせいかもしれない。
いや、きっと昨日に続くただの幻覚だ。

俺は窓を少しだけ開けた。
夜の湿った空気が部屋に流れ込んでくる。
車の走る遠音。どこかで鳴る自転車のベル。遠くの話し声。
街はまだ、起きている。

「……。」

もし。
またあの人に会えたなら。

今度は――名前くらい、聞いてみてもいいのかもしれない。

名前も知らない。
どこに住んでいるのかも、何歳なのかも、何をしている人なのかも知らない。
何もかも、データとしてはゼロだ。

それでも。
俺の中には、もう確かに「あの人」が存在している。

たった一度目が合って、少し笑い合った。
それだけの、見知らぬ誰か。

俺は窓を静かに閉めた。

「……名前。」

小さく呟いたその二文字が、胸の奥に妙に心地よく残った。

明日。
もし奇跡的にまた会えたなら。
今度は逃げずに、ちゃんと話しかけてみよう。

そう心に決めた。

手首のBandが、また小さく震える。


【睡眠をおすすめします】

「……はいはい。」

今度は、素直に笑って返した。

部屋の明かりを消す。
暗闇の中で、まだ見ぬ明日のことを考えた。

明日、あの人に会える保証なんてどこにもない。
話しかけられるかも分からない。
そもそも、同じ時間帯に同じ駅を使っているのかすら不明だ。

それでも。
ほんの少しだけ、明日が来るのが楽しみだった。
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