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君の体温は義務だった

第4章 接続

頭を下げ、部屋を辞する。

ドアが静かに閉まった。
廊下を一人で歩く。
手ぶらだった。レポートは高瀬部長のデスクに置いてきた。

なのに。
手ぶらの両手とは裏腹に、背中にはとてつもなく巨大な宿題を背負わされたような感覚が残っていた。


◇◇◇


帰宅して靴を脱ぎ、鞄を床に置く。
部屋の明かりをつける。

静かだった。
昨日と何も変わらない部屋。
同じ机。同じソファ。同じ窓。

俺はソファにゆっくりと腰を下ろした。
手首のHUG Bandがブッと震える。

【本日のコンディション】

心拍数:正常

体温:36.5℃

睡眠時間:5睡眠48分

ストレス指標:28

会話時間:31分

孤独率:39%

【総合判定:良好】

「……良好、か。」

画面を見つめる。
昨日よりも、すべての数字が良い方向に振れている。
会話時間も増え、孤独率は下がっている。

今日は牧野と話した。
高瀬部長ともじっくり話をした。
データの上だけで評価するなら、昨日より格段に「良い一日」だったということになる。

「……。」

けれど。
俺の頭の中は、昨日よりもずっと複雑に思考が渦巻いていた。

牧野と交わした気安くくだらない数分間。
高瀬部長と交わしたピリッとした緊張感のある時間。
雨の日の駅で見かけた、名前も知らないあの人。

どれも全く違う。
同じ「会話」でも。同じ「接触」でも。同じ「時間」でも。
俺の心の中に残った質感は、全部違っていた。

俺は手首のバンドを見つめる。

「……これじゃ、何も分かんないよな。」

もちろん、機械から返事はない。
分かるはずがないのだ。

このBandが計測しているのは、あくまで俺の身体的な生体反応に過ぎない。
心拍、体温、睡眠、ストレス、発声時間。
それらを計算式に放り込んで、「まあ大丈夫そうだろう」と推測しているだけだ。

けれど。
俺が今日、何に思考を巡らせていたのか。
何に救われて、何に引っかかり、何を明日へ持っていきたいと思ったのか。
そんな内面の機微まで、数字が拾えるわけがない。

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