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君の体温は義務だった

第4章 接続

◇◇◇

帰宅してからも、ずっと考えていた。

ぬるいシャワーを頭から浴びている時も。
味のしない適当な飯を黙々と口に運んでいる時も。

思考の裏側に、「82」という数字が焼き付いたようにずっと張り付いて離れない。

ベッドに倒れ込み、天井を見上げた。
昨日と何ひとつ変わらない、殺風景で無機質な白い天井。

けれど、今夜はどうしても眠れそうになかった。

「……じゃあ。」

静まり返った暗い部屋で、小さく呟きが漏れる。

「つながってるって、一体何なんだよ。」

投げかけた問いの答えは、暗闇のどこにも落ちてはいない。

しばらくすると、枕元に置いたスマホがブッと短く震えた。
手を伸ばして画面を開く。

【明日の予定】

・業務タスク整理
・定例会議
・17日 15:00 高瀬部長へ分析レポート提出

「……明日か。」

画面を伏せ、眩しい光を遮った。

明日までに、あの感情推定モデルのレポートをまとめ上げなければならない。
今日までは、「データが足りないなら新しい数値を作って補完すればいい」と心から信じ切っていた。
数値化さえできれば、人の心も関係性もすべて解き明かせると思っていたのだ。

けれど、今は全く違う。

たぶん、人間が本当に必要としているのは、そんな新しい数値なんかじゃない。
それが一体何なのか、まだ明確な言葉として形を結んではいないけれど、確信だけは胸の奥で強く脈動していた。

静かに目を閉じる。

脳裏に蘇ったのは、あの朝の光景だった。

名前も知らない彼。
雨の匂いが残る、駅の階段。
一瞬だけ交わった視線。
そして、彼が見せてくれた、あの少しだけ口元を緩めた柔らかい笑顔。

たったそれだけの、ほんの数秒の出来事。

なのに。
なぜか今も、皮膚の感覚や胸のざわめきまで鮮明に覚えている。

「……。」

俺は再び目を開け、じっと暗い天井を見つめた。

そして、行き着く答えはやはり同じだった。

あの数秒間の温かい記憶は。
どれほど高度なAIやアルゴリズムを駆使したところで、絶対にデータ化なんてできやしない。

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