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君の体温は義務だった

第4章 接続

「……なんで?」

誰も答えない。
画面の奥では、82という数字が静かに、そして冷たく表示され続けている。

82。
十分につながっている。
少なくとも、システム上は「孤独から最も遠い人間」だったはずだ。

俺は死亡前の行動記録を遡った。

最後の一週間。
家族との定期連絡。
友人との他愛のないメッセージ。
仕事上の会話。
外出、食事、睡眠。
どれも大きな異常値は見当たらない。

ストレス値も、急激な上昇は見せていない。
孤独率も、低い。
接続指数も、極めて高い。

「……。」

なのに、その人は誰にも気づかれず亡くなった。

俺は静かに画面を閉じた。
ディスプレイをオフにしても、あの数字だけが脳裏に焼き付いて離れない。

82。
82。
82。

「……数字、合ってるじゃん。」

思わず自虐的に笑いそうになった。
計算自体は何も間違っていない。
入力したロジックに対して、システムは正しく答えを出している。

だからこそ――酷く不気味で、気持ちが悪かった。

◇◇◇

定時を過ぎた。
周囲の席から、一人、また一人と人が去っていく。

椅子を引く音。
キーボードを片付ける音。

「お疲れさまです。」
「お疲れー。」

自動ドアが閉まる。
また一人、照明の消えた廊下へ消えていく。

やがて、フロア全体が静寂に包まれた。
広いオフィスに、俺だけが残される。

窓の外は完全に夜の闇へと沈んでいた。
黒いガラスに、オフィスの蛍光灯と、そこにぽつんと浮かぶ自分の情けない顔が映っている。

昼間見た82という数字が、まだ頭から離れない。

俺はもう一度、あのデータを開いた。

死亡した日の直前。
その人は、誰かとメッセージのやり取りをしていた。
ごく普通のやり取り。
短い言葉の往復。
内容は、どこにでもある他愛のないもの。

だからシステムは、それを「良好な交流あり」と自動判定した。

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