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自殺紳士

第18章 Vol.18:昏い家

不思議だった。
男性は、なにかを言うわけじゃなかった。
私がひたすらに話しているだけで、
何が解決したわけでもないのに、
少しだけだけど、元気が出た気がした。

男性がそんな私を見て、少し笑った気がした。
「良かったです。僕のことを忘れてくれれば
 もっといいんですけどね」

さっきの神様の話の続きだ。
どうやら人は死にたい気持ちがなくなると
この男性のことをすっかり忘れてしまうらしい。

そんなことがあるものかと、私は首を傾げた。
でも、この男性の不思議な雰囲気を感じていると、
もしかしたら、本当にそんな事があるのかもしれないとも
思えてくるのだ。

人と話す。
人が私の話を聞いてくれる。
ただ、静かに聞いてくれて、
私の気持ちが分かってもらえている気がする。

たったそれだけのことなのに、
なんでだろう。
自分がどっちに行きたいのか
少しだけ、考えられるような気がしてきた。

ふと、ずいぶん長く話してしまっていたことに気付いた。
時計を見ると、家に帰るように母に言われた時刻をとうに超えている。

「ごめんなさい。変なお話して
 もう、行かなくちゃ・・・母が・・・」

「智花!」

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