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自殺紳士

第18章 Vol.18:昏い家

僕、死にたがっている人がわかるんです。
神様がその力だけを僕にくれたんです。
そして、神様は言いました。
『死のうとしている人を助けなさい』って。

あなたからは死の気配がする。
だから、見ていたんです。

変な話だった。
そして、男性はこう続けた。

「あなたはずっと迷っているみたいに、見えたんです・・・」
と。

迷っている、という言葉が私の気持ちを言い当てていたようで、
そのせいだろうか、
私はこの奇妙な男性と話をしてみようかと思った。

男性と近くの公園のベンチに並んで座る。

ぽつり、ぽつりと、私は自分の話をした。
こんな風に自分の話をすることは、久しぶりで
もしかしたら、初めてなんじゃないかとすら思った。

「母と、うまくいかないんです・・・」

私の母は昔から気の強い人だった。
自分が何でも正解を知っていて、
父や私が選ぶことは全部間違っている、そういう態度だった。

小さい頃は、母が言うことが正しいのだと思って
そのとおりにできない自分は馬鹿なんだと思ってきた。

でも、だんだん、おかしいと思ってきた。
おかしいと思ってきたのに、
何がおかしいのか言えないのだ。

そんな自分がまたおかしかった。

「何かを選ぶと、それは違うって
 母の言う通りにすると、自分で考えてないって
 考えたことをいうと、お前は浅はかだって
 人に相談すると、そんな人の言う事を聞くなって」

鎖のように折り重なる言葉
 まとわりつき、絡みつき、私はいつしか身動きが取れなくなった

どうやって立っていいのかも分からなくて、
 なんで生きてるんだろう、なんで生きなきゃいけないんだろうって
いつもそんな事ばかり考えていた。

前にも進めない
後ろにも下がれない
右にも左にも行く道がない

「来年、受験なんです。
 大学、選ぶんです。
 みんなはちゃんと考えて、勉強して、模試を受けて、成績見て
 考えて、お話して、自分の足で立っている」

そんな話を、
私は随分と長く、この男性にしてしまった。

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