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自殺紳士

第18章 Vol.18:昏い家

☆☆☆
あの日のあと、数時間は母の機嫌は悪かった。
しかし、その後、私は不思議なことに気づいた。

その日の夜には、母は
あの公園であった出来事を
全く覚えていないかのように話していたのだ。

まるで、そんな出来事など
端から存在しなかったかのようになっていた。

なぜだかはわからない。
そういえば、あの男性は言っていた。
『死にたくなくなると、人は僕のこと、忘れちゃうんです』

もしかしたら、そもそも死にたいなんて思っていない母は
彼のことを覚えておくことができなかったのかもしれない。

だから結局、母はなにひとつ変わっていない。
あの、不思議な男性が叫んだ言葉も
流した涙も
何もかも、母は忘れてしまったのだ。

私は・・・どうだろう。

相変わらず、私の住む家は
冷たく、淀んでおり、窮屈だ。

私が何をしても、母は否定する

でも、変わったこともある。

私は自分が「苦しい」ことを知った。
そして、母が決して正しいわけではないことが
分かった。

私はあの男性の目を覚えている。

まだ、家は昏い

でも、ほんの少しの光がそこにある気がする。

だから私は、前ほど道に迷っていない
そう、感じるのだ。
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