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paradise lost

第1章 overture

「まあそんなことは置いといて…」
尚弥が俺に近付く。狭いエレベーターの中では逃げ場がない。
「や、やめろ、来るな」
俺は少しでも尚弥から距離を取ろうとするが、すぐにエレベーターの壁に背が当たってしまう。尚弥はジリジリと俺に距離を詰める。逃げ場を失い青ざめる俺を見て、尚弥は嗜虐的な笑みを浮かべる。
「………どうしてそんなに怯えているんだ?煌ちゃん?」
「…………その呼び方やめろ‼︎」
俺を馬鹿にしているような態度の尚弥に俺は精一杯強がって睨み付ける。俺の視線を受けても尚弥は余裕を崩さない。
「どうして俺の前から居なくなったんだ?煌ちゃん?俺は煌ちゃんの事を本気で愛していたのに…」
尚弥は俺のことをなんか愛してなんかいなかった。尚弥は俺のことをダッチワイフとしか思っていなかった。
「………俺はもうあんな事から足を洗ったんだ、もう俺は…尚弥の……『尚弥達』の言いなりにはならない」
俺の搾り出すような切実な決意を、尚弥は嘲笑う。
「……俺と一緒の頃の煌ちゃんはあんなに幸せそうだったじゃん、煌ちゃんだって、自分の身体を押し付けて挿れてほしいってオネダリしたりしてさ」
尚弥がかつての悪夢の日々を思い出させようとする。あの頃はほぼ毎日尚弥に抱かれ、それしか考えられなかった。またあんな淫蕩な日々に逆戻りしてしまうのか?俺は?芳樹と出会って俺は『普通』に戻れたと思ったのに…。
「さ、触るな…俺に触るなッ‼︎」
「もう、煌ちゃんは『普通』に戻れないよ、俺が本当の煌ちゃんを思い出させてあげるよ」
「んぐッ……‼︎!」
尚弥は俺の口に何か薬品を染み込ませたハンカチを当てた。俺は抵抗する間なく意識を失ってしまう。








「うっ…」
俺が目を覚ますと見知らぬ部屋にいた。薬の影響か頭の働きが鈍い。
「な、なんだよ、これ…」
俺は自分の身体を見て愕然とした。バイト先の制服のバーテンダー服は脱がされ、手首には鎖で繋がられた黒い革の手錠が着けられていた。俺は周囲を確認すると目がチカチカするような派手なピンクの部屋にいた。恐らく近場のラブホだとは思うが、正確な位置までは分からない。
「おっはよう、煌ちゃん、目を覚ますのが遅いから寝込みを襲うと思ったけど」
尚弥が残念そうに肩を落とした。

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