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paradise lost

第1章 overture

「どうしてあの子ってああもひとりで何もかも抱え込んじゃうんだろう」
芳樹からおかわりのカクテルを飲み干したさおりは煌のことを思い出してため息を吐いた。芳樹はさおりの懸念を否定しなかった。
(まあ、他から見ていたら無理しているのバレバレだよな)
芳樹は目を閉じて、煌と出会った頃を思い出す。あのやつれていた煌に比べれば比べれば確かに良くはなっているが、それでも無理をしているのは確かだ。確かに誰か煌の心を支えられるような人が居れば良いなと思いながら芳樹はグラスを磨く。






「くはっ…あははははっ!!!」
俺の乾いた笑い声が真っ暗な路地に響く。俺はもうあんな想いをするくらいなら大事な人なんて作らない…そう誓ったんだ。ひとしきり笑った後、俺は芳樹の住んでいるマンションに向かった。芳樹のバーは繁華街の裏路地にあり、夜は女子供がひとりで歩けないど治安が悪い。俺とすれ違うくたびれたサラリーマンが俺のほうをギラギラした目で振り返る。俺は男の視線に恐怖を感じながら早足で芳樹のマンションに向かう。マンション近くの公園を通り抜ける。その時、黒い影がこっそり俺の後を付けていることを、付けていることを気付かなかった。
(やっと着いた)
芳樹のマンションのエレベーターに乗った俺は安堵の息を吐いた。夜も独りも嫌いだ。嫌な事ばかり思い出してしまう。今にも震え出しそうになる身体に俺は大丈夫だと言い聞かせる。俺はなんとか呼吸を整える。これ以上、芳樹を心配させるようなことはしたくない。
「やあ、煌ちゃん…久しぶりだね」
やっと落ち着いた俺の身体が恐怖で震える。悪夢が悪夢でなくなる。俺はエレベーターのドアのほうを向く。
「……尚弥…」
尚弥(ナオヤ)…俺に一生消えない傷を…トラウマを刻んだ男で、出来ればもう一生会いたくない相手だ。そんな尚弥がなんで芳樹のマンションのエレベーターに?
「な、なんでここに…」
「たまたま…たまたま煌ちゃんが歩いているのを見かけたから後を追ったんだよ」
尚弥はたまたま俺を見かけたと言っているが、絶対嘘だろう。俺がこの付近に住んでいるのを知っていて、待ち伏せしたんだろう。どうして尚弥に付けられていることを気付けなかったのかと自分の迂闊さを呪った。

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