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燕尾服は似合わない

第3章 初めての仕事


伊織は俺を上から下まで眺めた。

品定めでもするような視線に思わず眉をひそめる。

やがて小さくため息をつき、口を開いた。

 ……まだ文句があるというのか。
 

「胸元まで開いたワイシャツ…血も染み込んでいるように見えますね…。

 大変見窄らしい…。校則違反です。

 スキニーは…腰下までお下げになられて…。

 下着が見えてしまいます…破廉恥です。
 そして、こちらも校則違反です。

 ピアスも多すぎますし、男子生徒のネックレス、夏服期間以外の腕捲りも全て校則違反です。」


「全部ダメじゃねーか!」

 淡々と告げられる数々の校則違反。
多少の着崩し…なんて思ってはいたが、まさかここまでとは。

「薫様の執事たるもの、校則違反などあってはいけません。」
 

  伊織の声が僅かに低くなる。

 
「執事の愚行は主様の顔に泥を塗る行為です。

 気を引き締めなさい。」

「……わ、わかったよ。」
 
 いつもよりもワントーン落ち着いた伊織の声色に、背中に変な汗が伝う。

 伊織はそんな俺を見て満足そうに笑みを浮かべると、
 奥からキャスターの音を響かせながらハンガーラックを押してきた。

そこに掛けられているものをみて、俺は思わず目を疑った。

「これは……も、もしかして…。」

「えぇ。」

 伊織はにこやかに笑う。

「貴方…神城専用の燕尾服でございます。」
 
 漆黒の生地は艶やかに光を反射し、一目で高級品だとわかる。

皺ひとつなく整えられたそれは、まるで主人を待つ兵士のように整列していた。数着の燕尾服。

「は……?お、俺がこれ着るの?…せ、制服じゃなくて…?」

「はい、問題ございません。

 こちらは、星ヶ浦学園から支給されている正式な燕尾服でございます。」


 そういうことではない。

 というか、そんなことどうでもいい。

「う…嘘だ…。」

なんだか、目眩がしてきた。無意識に後退る。
だが伊織は、容赦なく残酷な現実を告げた。

「貴方にはこれから、こちらを着用して学園生活を送っていただきます。

 もちろん、拒否はできません。」

 終わった。
 学園一の王様として周りから崇められていたこの俺様が…こんなモン着て奴らの前に立ってみろ。
 ……笑われもんだろ…!

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