
燕尾服は似合わない
第3章 初めての仕事
1人になった俺は、仕方が無いので自分の席に向かうことにした。
さっきまであんなに嫌だった燕尾服だが、注目されるために小道具に過ぎないと思えば、大したことはない。
自分のクラスの札を目指して進むと、多分、伊織と俺の席だけ空いていた。
どっちが俺のか分からないから、適当に近い方に腰をかける。
……いつもよりも、気持ち優しめに。
その瞬間、周囲からひそひそと囁く声が聞こえてきた。
「あれ、本当に神城だよね……?」
「なんで燕尾服……?」
「ていうか、さっき御影様と一緒に……」
耳障りな声に、思わず眉が寄る。
注目されるのは気持ちがいいが、見世物になるのは気分が悪い。
——ここには伊織も薫もいない。
少しくらい素を出しても問題はないはず。
「…てめえら」
ゆっくりと顔をあげる。
「なんか用かよ。」
たった一言。
それでも、周りを黙らせるには十分だった。
だけど、まだ気分が悪い。
いつもこういう時は、前の席を蹴飛ばしてストレスを発散させている。
俺は無意識に足を持ち上げた。
だが――。
『執事の愚行は主様の顔に泥を塗る行為です。』
不意に、伊織の声が脳裏をよぎる。
『気を引き締めなさい。』
「……。」
振り上げかけた足が止まった。
あのフレーズが、妙に耳に残っている。
舌打ちを飲み込み、俺は乱暴に椅子へ深く腰掛けた。
「……クソが。」
小さく吐き捨てる。
前の席は無事だった。
俺の学園生活も——多分無事。
そんな時、ざわついた館内に透き通るほどよく通る声が響いた。
『まもなく新学期説明会を開始いたします。生徒の皆様はご起立ください。』
聞き覚えのある声…
伊織だ。
「こんなこともすんのかよ…。」
アナウンスが終わると、合図もなく生徒たちは一斉に立ち上がった。
慌てて俺も立ち上がる。
どうやらこの学園の仕来りのようだが、こういう会に参加するのは初めてでよくわからない。
どうやらこれから学園長…薫の挨拶があるようだ。
ここからどうすればいいのかわからず、キョロキョロと周りを見渡していると、
いきなりドッと会場が湧いた。

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