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燕尾服は似合わない

第3章 初めての仕事

俺は着せ替え人形のように、あっという間に燕尾服を身に纏っていた。

「すげえなお前…。」

「…感心されておりますが、明日からはご自身で着用してくださいね。」

「は!?無理だろこんなの!」

「何を言っているのですか。
 わたくし達の本分は薫様の身の回りのお世話です。

 貴方がお世話されてどうするのです。」

「う…っ。」

 ぐうの音もでないほどのド正論。

「前髪は…少し分けましょう。
 ピアスも全て外してください。」

「俺のアイデンティティが…。」

仕方がない。
 ネックレスからピアスまで、装飾物をひとつひとつ外していく。

 伊織がご丁寧に小袋を渡してくれたが、めんどくさいので全部そのままポッケに突っ込んだ。

 ……怒られそうなので伊織の目を盗んで。

「さて、そろそろ参りましょう。わたくしは薫様のお迎えに向かいます。」

「あぁ…。」

 俺は慣れない燕尾服の襟元を引っ張る

 「この格好…気乗りしねーけど、仕方ねえもんなあ。」

「退学したくないのでしょう。腹を括りなさい。」

「はいはい…。」

 伊織を追いかけるようにステージ裏を抜けると、先ほど以上に体育館は生徒で埋め尽くされていた。

クラスごとに並べられたパイプ椅子には、既に全生徒たちが着席している。

 伊織の姿を見つけた女子共からはたちまち黄色い歓声が上がった。

 だが——
 続くように現れた俺の姿を見て会場は異様な空気に包まれた。

「え……?」

「なんで神城が……。」

「あの格好……。」

 囁き声があちこちから漏れ聞こえる。

 神城朔真が燕尾服を着ている。

 その異常事態に、生徒はもちろん教師たちまで困惑しているようだった。

 そんな周囲の反応など意に介さず、伊織は真っ直ぐ歩いていく。

 そして学園長室へと続く廊下へ、そのまま姿を消した。

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