テキストサイズ

はるさめ【5ページ短編】

第1章 飴売りの少女


次の日、

まだ日が明るい午後に偶然歩美に出会った

下校途中のようで可愛らしい学生服姿であった

「僕の頃と制服が違うんだね、そんなに脚を出していたかな?」

「2回腰で折ってるの、だって長く見えたら不良みたいになっちゃうじゃない?」

「あ、ブローチ使ってくれてるんだね」

「うん、わざと付けてきたの、春子に見せつけてやるために、なんてね」

笑ってはいたが、女の牽制はすでに始まっているのだろうか

そのままふたりで山の斜面にある神社へ行ってみることになった

森の中に静かにたたずむおごそかな雰囲気

虫の声、鳥の声、遠くでは農家の作業の音などが聞こえてくる

学校の出来事や仕事の話しなどをしながら階段を降りていく

最期の階段の一段上でふと名前を呼ばれる
振り返るとすぐそばに歩美の顔があった
二人はそのままくちづけをかわした…





それが




歩美との最期のやりとりとなってしまった




その日の夜、


村人総出で行方不明の歩美の捜索を行っていることを知る

康夫はわけがわからなかった

つい先程まで一緒に居たのに!?

海や池の周り、旅館の倉庫や無人家屋までくまなく捜索が行われたが何の手掛かりも得られなかった

もちろん康夫も村人たちに混じり、休むことも忘れ懸命に歩美の痕跡を探し続ける

だが何も出てこないのだ

すでにあたりは真っ暗だが役場では交代で休憩を取りながらも捜索は続いた

何度も見た温泉街の川沿いをもう一度確認しにいく

するとそこで堤防の上を鼻歌まじりに陽気な春子を見かけた

妙に楽しそうな雰囲気に康夫は思わず苛ついてしまう

「康夫さん、またあの場所に行こうよ」
春子は康夫を例の漁港のへりに誘った

康夫は漁港の水面に制服姿の歩美が浮かんでいる光景を想像してしまった
 たまらず、康夫は確認せずにはいられなくなった

夜の暗がりを通り抜けて、ようやくゆうべの場所まで近づいてきた

康夫は懸命に波止場から足元を見下ろし懐中電灯を当てていく
そんな康夫をせせら笑うかのように春子は歌を唄いながら柏手を何度も打ちながら歩いていく

無邪気に遊んでいるかのよう

楽しくてたまらないとでも言いたげだ

康夫が文句のひとつでも言ってやろうかと思ったとき、水面にサメが現れた


サメの口元には見慣れたブローチが光っていた










ストーリーメニュー

TOPTOPへ