
はるさめ【5ページ短編】
第1章 飴売りの少女
しばらく暗がりの道を進んでいくとふたりは近くの漁港に出てきた
あたりは真っ暗で人の気配は無い
春子は競り市場の建物からどんどん離れて波止場の端のほうへ歩いていく
さらに誰も来なさそうな場所
波の音はするものの、おだやかな夜だった
あらぬ期待に胸膨らませていた康夫の心も知らず、春子は波止場の端に立って海に向かってパンパン!と柏手を打ち始めた
どうやら淫らな誘いでは無さそうだと察した康夫は改めて春子の行動になんだろう?と黙って待っていた
すると海面が何度か揺らぎ始める
なにやら大きなものが海の中にいるように思える
大きな魚でも来たのか?
春子は柏手をやめるとズボンのポケットから何かを取り出した
飴だ
春子は飴をばらばらと撒いていく
すると海面からザバン!と巨大な口が突き上げてきた
「さ、サメだッッ!?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまう
それぐらい驚いた
こんな浅場に、こんな大きなサメがいるものなのか?康夫はあわてて後退りしてしまう
「驚いた?この子、うちの飴が好きみたい」
春子は自慢げに笑い、自分が手なずけたサメを見せびらかせた
「すごいでしょう!」
春子は自分は凄いのだとアピールしているかのように思えた
さらに春子は先ほど乾物屋で買った袋から何やら取り出す
干し肉だ
それを海へ投げ入れる
すると先ほどの飴のときよりさらに激しくバシャンバシャン!と波を立ててサメが狂ったように暴れ始めた
野生の迫力
大自然の脅威を感じる
春子は突然シャツとスカートを脱ぎおろし、肌着と下着だけの姿になった
それが何故かはわからない
少しでも大自然の中に溶け込もうとしたのだろうか
康夫か呆気にとられていると春子はまるで自分に酔ったかのように踊り始め、じゃあまたね!と闇の中に去っていってしまった
あたりはふつうの夜の静けさに戻った
康夫は改めて、なんだったんだろうと頭が理解出来ずただただ呆然と立ち尽くしていた
