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はるさめ【5ページ短編】

第1章 飴売りの少女


「ああ、これ?妹におみやげとして渡そうと思って……、少し前に街にオープンしたブランドのお店のものなんだけど、妹も会社の研修旅行で家に居なかったんだ」


「ええ、なら私にください」

「素敵ね、ここらじゃあ売ってないわ」

「ん?まぁそれはいいんだけど、それひとつしか無いんだ、ふたりでじゃんけんでもあみだでもしてくれるかい?」

ふたりの真剣勝負の結果、歩美が手に入れることになった

おとなっぽい顔立ちの春子が付ければ映えるかもしれないが、おぼこい印象の歩美が付けると子供のおもちゃの飾りのようだが、それはさすがに言えなかった

負けてしまった春子は怒ってひとりで階段を上がって行ってしまった
本気なのか、ふざけているのか康夫にはわからなかったが歩美が“春子はいつもああなの”と気にしていないようだ

川辺のヘリにふたりで座って1時間ほど話し込んでから歩美とは別れた


歩美の話していた学校の様子など社会人の康夫からすれば退屈な内容であったが、歩美があまりにも楽しそうに話すので聞き役に徹したことが良かったのか、康夫の印象がかなり良かった

康夫の会社は男ばかりなので若い女性と長い時間話すことは久しぶりであった

夜酒のためにと思って閉店間際の乾物屋を覗くと、中に同じく買い物に立ち寄ったであろう春子と出くわした

なんとも気まずいので、軽く会釈だけして買い物を済ませようと棚を眺めていたら春子の方から声をかけてきた


「康夫さん、面白いもの見せてあげましょうか」

顔立ちのせいなのか、子供のいたずらっ子っぽい笑みてはなく、まるで男を誘っているかのような春子の容姿に思わず康夫はふらふらとついていってしまうのだった


ふたりがやって来たのは温泉街からどんどん離れて灯りの少ないほうへ向かっている

“田舎の女のほうが積極的だな”と康夫は思った

歩きながらちらちら春子を見る
中学生には思えない胸のふくらみと腰の張り、すらりとした腕と脚

数時間前に隣に並んで座っていた幼い歩美とは違って見えるのは、康夫がすでにほだされてしまっているからなのだろうか

康夫は並んで歩く春子を女として見つつあった

それがまだ幼い学生なのだとわかっていても、この暗がりの通りが正常な感覚を麻痺させていた


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