
微熱に疼く慕情
第9章 【歪んだ世界でも凛として…】
インターホンが鳴り、解錠する
やっと来た、と言うべきか
遅かったって事はかなり葛藤されたんだろうな…と憶測がつく
玄関を開けると思いつめたような顔で入って来ては、私に襲い掛かってくる
最初は拒むよね、怖いじゃん
でも全然力じゃ勝てないのはわかってるし、勝とうとも思わないよ
寧ろ、そう仕向けてる
「良いんですか?全部、聞いてますよね?」
「……俺の事、嫌?」
「え…?」
「すぐそうやってそんな顔する、ズルいだろ」
再び唇を奪われて壁に押し付けられたら、大人のキスで力抜けて、ズルズルとしゃがみ込んじゃうんだよ
すぐそうやって腰を抜かせるそっちの方がズルいです
「一華が決めて……俺に抱かれる?それとも追い出す?追い出しても絶対に恨まないし、元の関係に戻るよ」
声、震えてるじゃないですか
こんな事しておいて最終的には私に任せるんですか?
しっかりしてよ、年上のくせに
まぁ、そういうところが愛おしいんだけどね
これも計算?
だとしたら、私のトリセツをよく理解している
「帰って…………って言ったらもう会わないの?」
あ、ヤバい、言葉にしたら涙腺が緩む
もうこれでサヨナラ?
明島さんにも会うなって言われたはずだよね?
それでも来たんでしょ?
仕事を失うかも知れない覚悟で私に会いに来たんじゃないの?
「あぁ、もう来ない」
ズルいよ、そんなの………私、どちらかなんて選べない
だから、選ばなくて良いと思うの
あなただって、私を失ったらどうなるの…?
「私は……明島さんが好き」
「わかってる」
「じゃ、何で来たの?私の事、掻き乱す為に来たの?」
「……そうかもな」
「帰って……」
「……わかった」
