微熱に疼く慕情
第9章 【歪んだ世界でも凛として…】
「大嫌いです……黒崎さんなんか」
そう言って後ろからハグをする
動きが止まって、私の手に手を重ねてきた
「うん、それで良い」
「何で会いに来たの……」
行かないで……と心で叫びながら声を震わせる
「一華、よく聞いて?俺はね、連れの女を好きになった……最後の最後まで困らせてごめん、こんなつもりじゃなかったのに、あのまま終わりは嫌で、顔が見たくてどうしようもなくて約束破って来ちゃうような男なんだ、だから一華は手放して正解なんだよ」
待って、何の話?
この人の口から別れを切り出されるんじゃないかと不安が押し寄せてきた
「会ってくれてありがとう、最後まで真摯に振る舞えなくてごめん」
「もう会わないの?」
「……会っちゃダメだよ、嫌いなんでしょ?」
「じゃ、何で来たの?私にどんな想いでキスしたの?」
「一華を見たら、理性なんてなくなるような男なんだよ」
「なくなれば良いじゃん」
「そんな事、言わないでくれよ……どうしたら良いか判断つかなくなる」
「こっち向いて」
半回転させて向き合うと、もしかしてと思っていた無精髭があった
いつも身嗜みに気をつけていた人がこんなボロボロになるまで……
「サヨナラしようか?さっきみたいに言ってよ、一華に嫌われたと思ったら踏ん切りつくから」
嘘つき……顔とセリフが合ってないよ
そっか、黒崎さんって、うんと年上だけど
惹かれ合うのは、私と同じ星の下に生まれたからだよ
似てるんだ、私たち
好き同士なのにほら、明島さんがお互いに好きで大事な人だから……動けないね
「嫌い……大嫌い」
ポカスカと力無く叩いてジャケットの襟を掴む
「うん……」
「大嫌いだよ、黒崎さんなんか」
器用なんだか不器用なんだかわかんない
それでも磁石みたいに惹かれ合うならもう流れに任せてみようよ……
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