
微熱に疼く慕情
第4章 【錯乱していく激情】
「彼氏?」と聞いてくる大智に目だけで合図して
ベランダに出ると同時に電話に出た
鼓膜に響く柔らかい声
それだけで胸がいっぱいになる
泣きそうになるのだ
「はい」と頷くだけで精一杯
次第に心があなただけを恋い焦がれていく
シフト休にしていて良かった
まさかこんな日に会えるなんて夢みたい
黒崎に迎えに行かせるよ……って、
もう知ってたんですね、そっか、報告してるんだ
この家を教えたのは黒崎さん……
声色はいつも通りだけど、怒ってないよね
電話じゃ「はい」しか答えない私だけど
切ると悶絶するほど悦んじゃう
部屋に入ると現実に戻っちゃうんだけどね
「大智、もう帰って」なんて平気で言えちゃうの
「は?」じゃないの、帰るの、今すぐ
服も荷物も渡してコップや食器を洗う
終わるとすぐにメイクしだす私に戸惑ってる
「え?彼氏?今から会うの?」
「……そう、だから帰って」
「彼氏、仕事じゃないの?」
「……とにかく帰って?関係ないじゃん」
最低な事を言ってるのはわかってる
でも今、そんなの気にしてる余裕はない
完璧に可愛い状態の私で会いたいから
彼氏じゃないけど私が一番好きな人……なんて
言ったら大智、発狂するかな
今のところ、彼氏だけだと思ってるよね
他にも居る事は多分、気付いてない
「……待ってちゃダメ?」
「え?」
「何処かで時間潰してるから終わったらまた会って欲しい…」
「やめてよ、そういうの……」
「何で?俺、そういう位置なんじゃないの?」
「自分が何言ってるかわかってる?」
「一華の、2番目の相手?一華がそう言ったんだよ、彼氏が居るけど私を追い掛けてれば良いって」
「……言葉の綾じゃん」
「今日は、一日の最後、俺と居て欲しいよ…」
