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シャイニーストッキング

第2章 絡まるストッキング1

 73 孤独感

「夜の銀座もほどほどに…
  あ…シャネルのお姉さんにもほどほどに…」
 仕方なく、そう仕方なく、せめて小さな抵抗をしたのである。

「じや、明日、おやすみなさい、大原本部長さん」
 そしてわたしは電話を切った。

 さて、とりあえず帰ろうか…
 わたしは蒼井美冴の面談を終えた後に、暫くは第2会議室で考え事に耽り、その後自分のデスクに戻って再びリストと睨めっこしていたのだ。
 だが、なぜか今日に限って普段全然気にならない人の動きがやけに気になってしまい、集中できなかったのである。
 そして仕方なく最近、ほぼ無人の部長室に入り、ブラインドを下ろし、ようやく集中できたのであった。
 そして午後7時過ぎに大原部長、いや、本部長からの着信があったのだ。
 わたしは午後7時半になったら電話を掛けようと思っていたので、先に掛かってきて少し驚いたのだが、電話の内容が更に驚きの内容であったのである。

 わたしが部長かぁ…
 まだドキドキが止まらないでいた。
 そしてもうリストには集中できそうにもなかった。

 とりあえず帰ろう…
 わたしは社外に出る。
 まだまだ真夏の夜は蒸し暑い、外に出た途端に汗ばむ様であったのだ。
 外のこの蒸し暑い気温に、ドキドキと更にザワザワも加わってくる。

 ああ、わたしが部長だなんて、この事を誰かに話したい…
 そうだ、笠原主任に話そうか、いや、ダメだ、彼女は主婦なのだ、今頃は夕飯の支度で忙しい時間のはずだ。

 だとするど…
 そう、わたしには友達がいない、こんな時、誘う相手がいないのである。

 あっ、そうだ、健太、武石健太、オリオンがいた…
 そして携帯電話を取り出して、メモリーを開く。

 ダメよ、ダメ、健太は部下なんだ、しかもこの前あんな事までしてようやく抑えた相手なのだ…
 ここで甘い顔を見せたら、また、振り出しに戻ってしまう。

 ダメだ、こうなると、やはり、わたしには誰も喜びを分かち合ってくれる人などいないのだ…
 だが、なぜか、ソワソワ、ザワザワ、ドキドキと昂ぶりが止まらない。

 誰もいない…
 こんな時はいつも大原浩一本部長が傍にいてくれていたのだ。
 だが、今夜は、いや、これからも今までの様には簡単に逢えない夜がやってくるのだろう。

 わたしは初めて孤独、いや、孤独感を感じていたのである…





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