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シャイニーストッキング

第2章 絡まるストッキング1

 72 小さな抵抗

「よかったです…
 あなた、浩一さんに付いていって…」
 わたしは心の底からそう思ったのだ。

「うっ、うん…そ、そうか…」
 そんなわたしの言葉に大原部長は、いや、大原浩一本部長は少し揺れた声で応えた。

「これから銀座ですか…」
 わたしはそう訊く。
 多分そうであろうとは思ってはいたのだが、もし予定がなければ逢いたかったのだ。
 逢って今夜もまた甘えたかったのである。

 だって思いかけずに、部長に昇進したのだ…
 興奮してしまって、治まらなさそうなのであるのだ。

「うん、山崎専務に呼ばれて…」
 だが、やはり仕方がない、山崎専務には逆らえない。

「ほどほどに…あ…シャネルのお姉さんにもほどほどに…」
 仕方なく、そう仕方なく、せめて小さな抵抗をしたのである。

「じや、明日、おやすみなさい、大原本部長さん」
 そして最後の足掻きをしたのだ、思い切り甘えた声で、まるでベッドの上にいる様な甘い声で囁いてやって、電話を切ったのだ。
 少しでも心に響かせて、銀座のお姉さんに抵抗したのである。
 ま、ダメなのも分かってはいるのであるが…


「ふうぅぅ…」
 
 ドキドキ…
 電話を切ってもドキドキしていた。
 だって、部長に昇進したのである。
 全く予想はしていなかった、確かに少し前、一緒のベッドに居た時にチラと、部長待遇、になるとは訊いてはいたのだが、まさか、待遇ではなくて、正式な部長になるとは夢にも思わなかったのだ。

 だが、これはあくまでも、今度の新規事業計画を成功した時に、正しく評価されるのであり、この先暫くは、ひがみ、やっかみにより、足を引っ張られるような事も予想されるのである。

 浮かれていてはダメだわ、逆に腹を括っていかなくては…
 足元を固めて、心を引き締めるのだ。

 だが、本当に嬉しい…
 
『よかったです…
 あなた、浩一さんに付いていって…』
 そう、さっき言った言葉が再び耳に聞こえてきていたのだ。

 本当によかった、あの時、思った事は間違いではなかった。

 そう思いながら、あの第3営業部時代の失敗を上手く尻拭いしてくれた、当時第2営業部の課長であった大原浩一さんの後を追っかけた事を思い出していたのである…

「よかったです…
 あなた、浩一さんに付いていって…」
 耳に残っていた…





 

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