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シャイニーストッキング

第6章 絡まるストッキング5 和哉と健太

 113 宝くじの確率

「あの朝以来…あれ以来よね…」

「あ、は、はい…」

 その美冴さんの言葉と声には、
『五年間も探してくれていたのね…』
 という、暖かい響きが込められている様に僕には感じられたのである。
 そしてそう感じた瞬間に、重い緊張感は溶けて無くなった。

「明日の夜はバイトなの…」

「い、いえ、あ、空いています」
 ドキドキしていた。

「じゃあ、明日の夜に会おうか、会って話そうか…」

「は、はい…」
 僕はそんな美冴さんの言葉に感動していたのだ。

 なぜならば
 美冴さんも僕と同じ様に想ってくれていた…
 考えてくれていたのだ…
 と、感じたからである。

 そして僕を、ストーカー的な、執着心的ともいえる様な思いなどとは、微塵も想ってはいないでいてくれている…
 とも、感じていた。

「和哉はどこに住んでいるの…」

「え、ええと、桜新町です」

「えっ…」
 僕がそう云うと、美冴さんは絶句をする。

「さ、桜新町なの…」

「あ、はい…」

「なんてこと……なの…」

 えっ、まさか…

「わたしの実家も…」

 えっ、そうなのか…

 この駒澤大学に入学してからの約四年間、美冴さんの僅かなキーワードを元に、田舎から上京してきた最初から選んで住んだこの街が、正にドンピシャ、美冴さんと同じ街だったのか…
 僕はこの事実、現実に鳥肌が立つ想いをしていたのである。

 駒澤大学を地図で探し、何となく目に留まった『桜新町』という文字と、駅名…
 それが、いきなりの1350万人の1の当たりを引き当てた、というのか。

「ウチは深沢中学校の近くなのよ…」

「僕は美術館の近くです…」

「えっ…」
 美冴さんは再び絶句をする。
 なぜならば、目と鼻の先だからであったから。

 歩いても10分は掛からない、いや、5分くらいである…

「なんてことなの…」

「は、はい…」
 
 ドキドキドキドキ…

 この現実に、更にドキドキと昂ぶりが増してきていた。

 やはり僕は、いや、僕達は見えない蜘蛛の糸に絡まれて…
 いや、違う。

 神様に弄ばれているのだ…

 1350万人の1の確率の宝くじを一発で引き当てたようなモノなのである。

「ふうぅ、なんだか驚いてしまって言葉が続かないわ…」

「は、はい…」
 それは僕も同じであった…






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