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シャイニーストッキング

第6章 絡まるストッキング5 和哉と健太

 100 大都会の中での奇跡

 僕はタクシーで走り去る真実の姿を見送った後に帰省するフリなのだが一応、万が一を考えて駅の改札口まで歩いて行った。
 そしてちょうどそのタイミングで下り電車が到着し、夕方のラッシュ時に差し掛かる時間帯のせいもあり、大勢の人々が改札口から出てきたのである。
 そんな大勢の人々が改札口を出ていく姿を、僕は改札口の端に寄ってなんとなく眺めていく。

 すごい人の数だ…

 僕は北関東の地方都市出身である。
 高校生まで住んでいた実家の街は一応県庁所在地であり、その県内では一番人口が多い市であった。
 だが、こうして大都会の駅の改札口の人々の出入りの様子を見ても、そして今いる私鉄の小さな町の駅の改札口の出入りの人数を見てみても、根本的に人口が、住む人々の人数が一桁違うのを、本当に実感してしまう。

 こんなに沢山の人々がいるのに…

 僕は、ふと、五年前のあの

 上京して美冴さんを探すのだ…
 と、いう決意と、気概が本当に子供じみていた想いであったのだなと思い返していた。

『駒澤大学の近くに実家があるのよ…』

 その美冴さんの一言だけで、藁にもすがる思いで駒澤大学に入学し、そしてこのエリアで生活をしている。

 本当に若かったんだなぁ…

 子供だったんだ…

 こんな約1300万人以上の人が住んでいる大都会東京で、人探しを、いや、美冴さんを探そうなんて想う事自体が無謀であり、まるで子供の発想だったのだ。
 
 だが、その探すという想いが、この東京での学生生活の全ての中心となっていたし、また、その使命感的な想いにも多分、僕自身が酔っていたのだと思われる。

 本当に、本気で美冴さんが見つかるとは…

 再会できるとは…
 本音は夢にも思ってはいなかったのだ。

 ただ、当時、具体的に将来の夢や希望等が何もなかったから、逆に、こうする事が、こんな不惑でもこんな想いを心に秘める事が、この大都会で生きていく、そして学生生活をしていく上での大事な心の柱になっていたのだ…
 と、僕は今ではそう思っている。

 だが…

 本当に、再会してしまったのだ…

 この大都会という砂漠の中で、ほんの小さなピアスを見つけるような、絶望的な確率の中で奇跡が起きたのだ。

 そして僕はその奇跡を確実のモノにしたくて、アテはないのだがファミレスに行く…



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