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シャイニーストッキング

第16章 もつれるストッキング5  美冴

 77 最悪でひどい夜…(1)

「………………」
 どうやらわたしは、あっけなく意識を翔ばしていたみたい…
 それはまるで、荒ぶる数えきれない大波にグチャグチャに揉まれ、幾重の泥と瓦礫にまみれた真っ暗な汚い海の底に沈み…
 ううん、踠き、掴める筈もない水を懸命に掴もうと必死に足掻き、溺れ、いや、正に、溺れているかの如くの息苦しさを感じていた。

 息が、胸が、苦しくて…
 懸命に息を吸おうとするのだが、なぜか呼吸ができない…
 助けて…と、悲鳴を上げようにも声が出せない…
 そんな息苦しさに、悶絶寸前に陥っていると…
 
 あ……

 不意に、その苦悶の意識の中に…
 わたしの記憶という鼻腔の奥に…
 心を騒めかせてくる懐かしい香りが… 
 ううん…
 ああ、ゆうじ、ゆうじのタバコの匂いだ…

「…………っ…」
 わたしは一気に目覚めた。
 
「…………」

 目を開くと…
 どうやらわたしは仰向けに、全身が虚脱の状態で寝ており…
 見知らぬ天井が目に写ってきた。

 そして、辺りに漂うタバコの匂い…
 ううん、その匂いは、ゆうじの懐かしいタバコの紫煙…
 ゆっくりと意識が戻ってくる。

 目だけを動かし、周りを確認する…
 え…
 どこ、ここは?…
 知らない部屋…
 首を少し動かし、ベッドサイドを見る…

 あ…
 その時、この枕から、もうひとつの懐かしい香り、いや、匂いを感じ…
 ああ、そうか…
 そう、この独特の甘い匂い、甘い体臭は…
 そうだ、そうだわ、彼の匂い…
 わたしは一気に覚醒し、同時に強い騒めきが、心を激しく波立たせてきた。

 そう、ここは…
 彼、大原浩一のマンション…
 ベッドルーム…

 そう、そうだわ…
 今夜わたしは、彼と、抱き、抱かれ、互いを激しく貪り合うかの様に愛し合っていた…
 いや、違う、はっきりと思い出してきた。

 わたしは彼、大原浩一というオトコを…
 盗り、獲い、ううん、略奪しようとしていたんだ…

「…うぅ……」
 その覚醒と同時に、さっきまでのカラダの余韻が一気に甦り…
 そしてその、まるで最悪な二日酔いの如くの余韻の違和感が…
 渦巻く思念、思考が…
 ヒガミという欺瞞と疑念の心の歪みが…
 いや、違う…
 醜く、邪な濁情が…
 一気に、心いっぱいに、溢れてきたのだ。
 
 最悪だわ…



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