テキストサイズ

シャイニーストッキング

第16章 もつれるストッキング5  美冴

 80 最悪でひどい夜…(4)

 飲みかけの缶ビールを手に持ち、静かに彼が近寄り、わたしの傍らのベッドの上に座り、覗いてきた…
「あ…」
 すると、目だけを開き、彼を見つめているわたしの目に気付き、そんな小さな声を漏らす。

 その声は…
 きっと、まだ起きやしないだろう…
 という、そんな意外性の声音であった。

 起きたのか…
 そして、そんな目で…
 いや、その彼の目の色には…
 わたしに対する慈愛の色が浮かんでいた。

 そう、わたしへの慈愛の想いの色…

 慈愛の色…
 それは、さっきまでのわたしの醜さ、弱さ、欺瞞、という感情を否定せず、突き放しもしない、慈しみの情愛という大きな優しさの想い。

 そんな彼の想いがその目から一瞬にして伝わってきて…
 逆に、さっきまで渦巻いていた、自分の心の邪な醜さの昂ぶりが再認識されてしまい…
 少し緩みつつあった不惑な騒めきが、また再び甦ってしまう。
 そしてまた、心の中には…
 相反する彼に対する悔しさと苛立ちという、完全な敗北感の想いまでもが沸き起こってきてしまっていた。

「う…ぅぅ……」
 わたしはそんな敗北感に必死に抗おうと、両手を着き、上半身を起こし…
「はぁぁ………」
 息を吐き、顔にかかった乱れた髪を掻き上げながら…
「………………………」
 彼を見る。

 まだ…
 まだ、負けてはいない…
 いや、いない筈…
 わたしの魅力で彼を…
 彼を、大原浩一というオトコを取り戻し、いや、略奪する………んだ…………
 と、必死に、さっきまでの欺瞞の昂ぶりの衝動の想いを反芻し、浮かばせるのだ…が……

 彼のその…
 慈愛という色の目を見て…
 その濁情といえる激情であったはずの流れが…
 みるみる、静かに、穏やかで、緩やかに鎮んでいくのを自覚してしまったのだ。

 あぁ、ダメだ、ダメだわ…
 完全に負け、ううん、彼の優しさに飲み込まれてしまった…
 そして、その敗北感という自覚の想いは…
 逆に、わたしの心を違う意味で苛立たせてくる。

「あぁ……ふぅぅ……最悪だ…わ……」
 そう、最悪…
「あぁ…ひどい……夜………」
 本当に、ひどい夜だわ…
 
 それは、わたしの天の邪鬼な本当の想いからの苛立ちのコトバ…
 認めたいけど…
 認めたくはない…

 相反する、矛盾な想い。
 



エモアイコン:泣けたエモアイコン:キュンとしたエモアイコン:エロかったエモアイコン:驚いたエモアイコン:素敵!エモアイコン:面白いエモアイコン:共感したエモアイコン:なごんだエモアイコン:怖かった

ストーリーメニュー

TOPTOPへ