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シャイニーストッキング

第15章 もつれるストッキング4    律子とゆかり

 88 対峙の時(13)

 間違いない、もう彼の中での一番の存在はわたしだ…
 わたしは完全に佐々木ゆかりから彼を奪い穫ったのだ…
 と、コーヒーの準備をしながら心を激しく昂ぶらせていた。

 だが…

「あ、おっ、あ、蒼井くんも…ごくろうさま」
 という、次に聞こえてきたその彼、大原浩一常務の、そんな、いや、佐々木ゆかりに対してと同様な、いいや、同じ様なやや動揺気味なその言葉と声音に…
 急にわたしの心が昂ぶりから騒めきに変わったのである。

 えっ、な、なに、なんなの、その狼狽え気味な感じは?…
 
 そ、それに蒼井美冴って、あの彼女なの?…

 わたしはあまりにもこの佐々木ゆかりとの対峙の瞬間に、気持ちも心も集中していたから…

 あまりにも彼女に対しての対抗心を高め、昂ぶらせてしまっていたから…

 それに次に常務室に入ってきた越前屋さんの存在に心の張りを緩めてしまったからなのか?
 その三人目の存在に対して全くの無警戒であり、ううん、目にも入らなかった、いや、目に留める余裕がなかったのである。

 そのくらいにこの対峙の時は、その瞬間は緊張感でいっぱい一杯であったのだ…

 そして…
「は、はい…」
 その蒼井美冴さんの彼の言葉に対する応えが、また…

 えっ?…

 わたしの心を更に揺るがせ、騒つかせる様な、違和感いっぱいに感じさせる声音の返事であったのである。

 そしてそんな想いに急に心を揺らがらせられながらコーヒーを準備しているわたしは必死に…
『蒼井美冴』という名前を脳裏に想起し、巡らせていく。

 蒼井美冴…

 あおいみさえ…

 あっ…

 そう、彼女は当時、いや、当時といってもお盆休み直前の時期に急遽、部長権限による『正社員雇用制度』を適用され、本社コールセンター部での人材派遣社員からの異例の抜擢をされた存在…

 そして正社員に雇用されてからの僅かな、いや、お盆休みを挟んだほんの数日後に今度は山崎専務推薦により、異例といえる『新プロジェクト準備室』メンバーでのコールセンター主任に抜擢された異例であり、特例中の特例といえる存在でもあった…

 だからわたしは、そんな異例な特別感に違和感を感じ、常務専属秘書就任に際し、独自に彼女、蒼井美冴さんの履歴を調べ、脳裏の隅に記憶していたのである。

 あっ、あともうひとつ浮かんできた…

 

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