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シャイニーストッキング

第15章 もつれるストッキング4    律子とゆかり

 87 対峙の時(12)

 あの時…
 彼、大原浩一常務は、わたしの出自の、血脈の秘密を知ってもなにも変わらなかった。

 だからこそわたしはそんな彼の愛を感じ、信じ…
 彼を奪う、つまり、佐々木ゆかりから奪い取るという思いの欲求に変わったのである。
 
 いや…
 奪い穫ると心に決めたのだ。

 それにわたしは今、女、オンナとしても、そしてこの脚、つまりは彼の性癖嗜好であるこのストッキング脚の魅惑さ等にも…
 いや、全てに於いても…
 この目の前に対峙している佐々木ゆかりよりわたしの方が美しく勝り、いいや、勝った、勝っているという自負の思い、昂ぶりを感じ、ううん、認識し、心を高鳴らせながらコーヒーを淹れていた。

 そして何より、彼の常務就任の夜から今日、いや、今朝、いいや、今のこの瞬間まで…
 彼の思い、愛情の比重が完全にわたしに移ったと確信し、自覚する。

 それは…
「やぁごくろうさん、わざわざすまないな」
 林田社長との電話が終わり、振り向き、彼女達三人に対してそう声を掛けてきた時の…
 面白いくらいの動揺と苦手な嘘、ウソをついている時に顕れる彼の、不自然で違和感たっぷりなその言葉により確信したのだ。

 そして…
「あ…は、はい、いえ、いや、システム情報部に来ていましたから…」
 それに対して彼女、佐々木ゆかりも敏感に彼のウソを察知し、違和感たっぷりな声音でそう答え…
「あ、そ、そう、あの例のアレ、システムプログラムにかなりの進展があったみたいと聞いたが…」
 更に彼の動揺の声音を露わにしたその返しに…
 彼女、佐々木ゆかりの露骨に浮かべたその違和感たっぷりな表情を盗み見て、完全にその思いを確信したのである。

 そして更に…
「はい、そうなんですぅ、もの凄い進展、進捗なんですぅ」
「おぉ、そうか、そうなんだ」
 という彼女との会話とは全く違う越前屋さんとの明るい会話の彼の声音のギャップ差の違いに完全にそう確信をした。

 間違いない…
 もう彼の中での一番の存在は…
 わたしなんだ…
 彼女に対しての後ろめたさの顕れの声音なんだ…と。

 完全に佐々木ゆかりから彼を奪い穫った…のだと。

 わたしはコーヒーの準備をしながら、その彼、大原浩一常務と、佐々木ゆかりとのそんな違和感たっぷりな声音の会話を聞き、そう心を激しく昂ぶらせていた…

 だが…


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