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シャイニーストッキング

第15章 もつれるストッキング4    律子とゆかり

 85 対峙の時(10)

「え…と、皆さんコーヒーでよろしいかしら?」
 そしてわたしは、この目の前で絶望的な色の目を見せてきている佐々木ゆかりに対して、そんな勝ち誇った想いを持ち、そう問うた。

 確かこの佐々木ゆかりは美しく、いいオンナではあるが…
 この三日間、つまりは彼、大原浩一が常務に正式に就任をした夜から昨夜までの毎夜、毎晩、彼と過ごし、いや、抱かれ、そしてわたしに対する愛が確実に強く深まってきているのを確信し愛されている実感ができていた。

 つまりそれは…
 彼の中の一番大切な女、オンナという存在感が彼女からわたしに移ったという事実。

 間違いはない…
 わたしは今、佐々木ゆかりより確実に愛されている。

 彼の愛の比重の重さは間違いなくわたしに移ったのだ…
 その確信の想いも彼女に対する優位さであり、この勝ち誇った思いにも通じているのだ。

 そしてその思いに打ちひしがれたかの様な彼女の絶望的な目を見て…
 わたしの心は更に高鳴り、昂ぶってきていた。

 すると…
「お姉さん、あ、いや、ま、松下さん、わたしが煎れますよぉ」
 そんなわたしと彼女とのこの一瞬の対峙という瞬間のお互いの心の激遣り取り等なんて全く気付かない、いや、関係ない越前屋さんがそう言ってきたのである。

 そしてこの越前屋さんの明るく、朗らかなキャラからが故のこの言葉に…
 わたしの、この佐々木ゆかりとの視線の間にピンと張り詰めていた目に見えない緊張の糸が一気に緩んだのだ。

「あら、いやそんな、越前屋さん、今日はお客様なんだから…」
 いや、心の緊張感もスッと緩み、いつもの越前屋さんに対する様な軽い感じでそう返せた。

 そして少し気持ちも軽くなり、後ろの衝立て奥にある給湯コーナーへと振り向き、コーヒーを淹れに向かう…
 だが、その振り向く瞬間に、再び、彼女、佐々木ゆかりの視線が曇ったことに気付いた、いや、見逃さなかったのである。

 その彼女の視線の曇りとは…

 それはわたしの脚に、いや、このわたしのストッキングを穿いた脚に一瞬向けられた彼女の熱い視線であり…
 その視線の揺らぎである。

 そしてまたその揺らいだ曇りの視線とは…
 つまりは彼女の心に再び湧いた絶望的な視線が意味するその思いが、その一瞬で、ひしひしと伝わってきたのだ。

 その思いとは…
 


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