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シャイニーストッキング

第14章 もつれるストッキング3          常務取締役大原浩一

 127 律子の言葉…

「あ、ん、や…んん……」

 そんな二人の見事な去る姿を呆然と見送った私は、エレベーターに乗るなり、二人だけな事をよいことに…
 律子をグイッと抱き寄せ、キスをした。

 このキスは正に、さっきまでのあの竹下くんの肉惑的な色気と艶気のアピールの攻めにより、さんざんと高まり昂ぶってしまった自身の心の揺れの再認識と修正の為と…
 あの二人が去った瞬間の律子による…
『お疲れさまでしたね…』
 と、不適な笑みを浮かべながら呟いてきた事への無意識な私の誤魔化しのキスといえたのだ。

 おそらく律子は今夜の竹下くんと私の流れの全てを知っているであろうし、さっきまで青山くんと一緒にいたという事から、おおよその内容を彼から訊いて知っている筈であり…
 いや…
 そんな律子による
『お疲れさまでしたね…』という呟きの言葉に、彼女の色々な思い、思惑が、あと、微かなイヤミの意味等の全てがこの一言に含まれているのだと、私は咄嗟に感じ、察知し、この誤魔化しの意味でのキスを無意識にしたのだと思われる。

 そして律子が用意したこのホテルでのいわゆるワンランク上の
『スペシャルルーム』
 に、入るや否や…
 更にギュっと律子を抱き締め、強く唇を求めていく。

「あん、や、やん」
 だが律子は、そんな私の内心などお見透しらしく、スルっと首を振って私の唇をかわし…

「なんか、安っぽい香水のニオイがキツいから…
 シャワーを浴びてらっしゃったら」
 と、私の目を見つめながらそう言ってきたのだ。

「えっ、あ、う、うん」
 そして私はそんな言葉にドキンっと心を揺るがせ、動揺しながら、思わず自らの腕や胸元辺りをクンクンと嗅ぐ仕草をしてしまう…

「さ、早く…」
 そんな律子の言葉は有無を言わさぬ感じではあったのだが
 その声音からは怒りやい苛立ち等は感じられなかった。

「あ、うん…は、はい」
 だから私はひとまずはホッとし、そしてその言葉に従っていそいそとシャワールームへ入る。

 しかし脳裏には律子の…
『安っぽい香水のニオイがキツいから…』
 と、言ってきた言葉がグルグルと巡っていた。

 そんなその律子の言葉はつまり…

 さっきまでの、あの支社長専属秘書という存在の彼女と過ごした時間の意味を理解した上での遠回しな批判と、イラつきの意味なのだろうと思われる。


 

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