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シャイニーストッキング

第9章 絡まるストッキング8        部長佐々木ゆかり

 224 賛美と罪悪感と責任と…

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁぁ…」
 わたしを後ろから抱き締め、つまりは羽交い締め近いカタチのままに息遣いを荒げ、固まっているようであった。

 え…

 まさかこのあとどうしてよいか分からないのか…

 いや、それはないだろう…

「はぁ、ふぅぅ…」
 背中から熱い想いと鼓動が伝わってくる。

 おそらく…

 わたしを抱き締めたのはいいが…

 次へと踏み出せない…

 次へと踏み出す勇気が…

「ふぅぅ…」

 間違いない…

 この吐息がそれを表している…

 わたしは抱き締められながらゆっくりとしゃがんでいくと、杉山くんもその動きに合わせてしゃがんできた。
 そしてわたし達は部長室のデスクの陰に隠れたカタチとなり、これで一応ブラインドは閉めてはあるのだが外から覗かれるという万が一の心配は少し消えたといえる。

 あとは、この杉山くんを落ち着かせなくては…

「はぁ、ふぅ、はぁ…」
 後ろから羽交い締めのカタチなのだから、当然クロスしてきている腕は胸元にある。

 ここまで頑張ったのだから、勢いでこの胸元の腕でわたしの胸でも鷲掴みにすれば良いようなモノなのだが…

 ふ…、やはりここら辺が杉山くんなのよね…

 シロウト童貞たる所以なのよね…

 わたしにはこの彼の戸惑いと躊躇によるこの間が、冷静になれるきっかけとなり、いや、もう既に冷静になってきていた。
 そして逆に、この行動をしてきた杉山くんの勇気の想いへの賛美と、責任からの罪悪感さえ少し湧き起こってくるという余裕が生まれてきてしまっていたのだ。

 そうよ…

 わたしが散々煽ったせいの結果なんだから…

 わたしが全部悪いんだから…

 そう思い始め、そして責任を感じてきていた。

 責任…

 それは、もしも…

 ここでこの彼の行動を完全に否定してしまったのならば…

 彼にとっての第二のトラウマになってしまうやもしれない…
 いや、間違いない。

「はぁ、ふぅ、はぁぁ…」
 
 だが…

 この彼の固まりと荒い息遣いを感じると…
 あまりいい結果にならないような気がしてきたのである。

 ここはやはり、わたしの責任なんだから…

 ひと肌抜いてやらなくては…

「…ね、ねぇ…」
 
 わたしはそう思い、杉山くんに声を掛けながら、後ろを振り返っていく…


 

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