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アシスタントで来ただけなのに…!

第2章 共同生活と住み着く男の霊

先生の自室の扉をノックして、中に入った。
いつも通りパソコンの前に腰掛けた先生は私が来たことに気づいてないのか、こちらを振り返らない。

「…失礼しますっ」

小声で呟きゆっくり扉を閉めて、邪魔にならないよう部屋の中に入った。

先生は全くこちらを見る様子はなく、手元に集中していた。
仕事でもしてるのかと思い、後ろから覗き込むように様子を伺うとタブレットにペンタブを立てて何かを描いているようだった。

これは…!と胸が高鳴った。
憧れのルイ先生が目の前で漫画を描いている。
新作だろうか。それとも前描いてくれたようなラフ画か。
迷いなくペンタブを踊らせるように滑らせる先生は、やはりプロだ。鬼才漫画家、市川ルイの名が響いた。

このまま後ろから眺めているのも悪くは無い。
なんなら、一生このままでも良い。

しかし、ルイ先生は仕事の話がしたいと言っていた。
あまりにも集中している先生に声をかけて、中断させるのは躊躇したが、仕事の話も気になるので思い切って後ろから声をかけた。

「…ルイ先生?あの、準備できました…」

後ろから声をかけたのに、先生は全くこちらを振り返らない。
返事すらもしない。かなり集中しているようだ。

さて、どうしたものか。
一度宙を見上げてふぅっと息を吐き、もう一度声をかけてみた。

「ルイ先生…!」

結構な声量を出したつもりだが、一向に振り返らない。
二度目もだめかと項垂れそうになったが、三度目の手を考えた。
声をかけるだけではだめなら、肩を叩いてみるか。

恐る恐る手を伸ばして、先生の金色の後ろ髪がかかった細い肩をトントンっと後ろから優しく叩いた。

すると、やっとくるりと振り返ってくれた。
あぁ、良かった。このまま気づかれなかったら私は一生放置されることになっていたかもしれない。

特に肩を叩かれて嫌そうな顔は微塵としてなかったが、失礼を詫びた。

「すいません、声をかけたんですが振り返ってくれなかったので」

「…構わない。すまない、遅くなってしまって」

先生は握っていたペンタブを置くと椅子ごとくるりと私の方へ向き、顎に手を添えて悩む仕草をした。

私の目元を見ていたはずの先生の視線が徐々に下へ下へと向けられていった。

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