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玄関には既に母が私を待っていた。
　
｢お父さんと話できた？｣

私は頷いて、もう一度母に抱きついた。
最後に母の温もりを感じたかった。

私は涙ぐんだ声で、母の耳元で呟いた。

｢…私、お父さんもお母さんも大好きだよ｣

そう言うと、母は笑って私の背中を叩いた。

｢何言ってんのよ、この子は。全く誰に似たんだか｣

母は体を離して私の顔を持ち上げた。

｢…お母さんも大好きよ｣

にっこり笑った母の目は潤んでいた。
私はつられて笑らい、幸せを感じた。

この幸せを噛み締めながら出発できることが、嬉しくて私はこの家に生まれてきてよかったなと心の底から思った。

｢じゃあ、行ってくるね｣

荷物を持って私は扉を開けた。

｢いってらっしゃい｣

母は手を振って、私を見送ってくれた。
いつも通りに母に見送られたはずなのに、なんだか今日は特別な気がした。

家を出て最後に我が家を眺めては振り返り、ルイ先生が待っている屋敷へ向かった。

ーーー
ーー
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電車に揺られて、1時間。
私は荷物を抱えて電車を降りた。
雲一つない晴れた空を眩しそうに見上げて、ふぅっと一息つく。
新しい門出に相応しい天気に恵まれたなとつくづく思う。

ここは空気が澄んでいて、風も涼しい。
住むには快適な場所だ。

自然を体に取り入れて、よしっとキャリーケースを引きながら森の入口に向けて進む。

これから住み込みで働く為に用意した荷物はそれなりに重い。
特にキャリーケースに入り切らなかったバッグはかなり重く、20分の山道を歩くのは少し気が遠くなる。

汗をかくんじゃないかと思ったが、まだ五月で本格的な夏が始まっていないのもあって、涼しい風がよく吹き心地いい。

私は自然の風に吹かれながら歩いていると、入口に辿り着いた。