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アシスタントで来ただけなのに…!

第1章 鬼才漫画家、市川ルイ

私はフラフラの足で立ち上がり、手に持っていた先生のスケッチブックを渡した。

「…あの、ありがとうございます…」

「なにがだ」

「えっと、綺麗に描いていただいて…」

決して先程の行為についての感謝の言葉ではない。
むしろこの絵を描くためになぜあのような行為をしたのか、理解が追いつかず、先生に質問した。

「ただ、先生…参考になったとはいえ、こんな行為をする必要があったのでしょうか…」

「僕は隅々まで参考にする、意味はあった」

即座に答えた先生に驚いたのか、先程果ててしまったばかりだから、ひどく目眩がした。
参考にするにしろ、これは過激すぎるのではないか。

一度、頻繁に取っていたメモを見たいとこだった。
一体この行為をどのようにメモしているんだ。
私はまだ浮遊した気持ちの中、ただ先生の横顔を眺めた。
 
「もう服を着ていいぞ」

先生は先程描いたスケッチブックとメモを見合わせながら吐き捨てた。
私はそそくさに脱ぎ散らかした自分の服をかき集めて、一つ一つ着ていく。

先生はこちらに見向きもせず、ただ手元にあるメモ帳とスケッチブックを見ながら口を開いた。

「明日から来れそうか」

「明日から、ですか?通いであれば可能です」

背を向けていた先生は振り返り、首を横に振った。

「いや、明日からここに住んでもらいたい」

「っえ、それは急すぎます!」

即座に難しいと伝えると、先生はまた悩む仕草をした。

「来週からなら、できると思いますけど…」

「今週だ。今週から住んでもらいたいんだ」

今週?頭の中で今日が何曜日かを考える。

「こ、今週って…今日は金曜ですよ!?明後日までに来いってことですか!?」

「そうなるな」

なんだろうか、この振り回される感じ。
平然と口を開く先生が自分勝手に感じた。
1時間半の距離はそう遠くは無いが、一日で準備して来いと言うのはなかなか厳しい。
特に女の私は準備する物も多い。それに母が納得するかも微妙だ。

「…来週からじゃだめなんですか?」

「そうだな、君に早速任せたいことがある。早急に住んでほしい」

任せたいこととはなんだろうか。
早速アシスタントとしての、それらしい仕事を任せたいのか。それとも先生が言っていたモデルの仕事か。
私は先程の行為を思い出しつつ、まさかなと打ち消した。

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