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イジワルな彼女。

第8章 絆-キズナ-


喫茶店の前まで来ると

「先に入って待っててくれる?」

大野さんはそう言い残し、
お店の裏へと消えていった。
僕は言われた通り、
お店のドアを開け中に入る。


「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」

「えっと、もう一人来ます」

「かしこまりました。こちらへどうぞ」

案内されたテーブルは、
奇しくも唯さんと来た日と同じ席だった。

「ご注文お決まりになりましたら、
お声掛けください」

店員さんに会釈をし、
僕は大野さんの到着を待った。


しばらくすると、お店の入口から
大野さんが入ってきた。
そして僕の姿を素早く見つけ、席につく。

「お待たせしました!」

「いえ、全然大丈夫です」

そう答えた僕だったが
頭の中はこの席で唯さんと過ごした
記憶がフラッシュバックし、
内心落ち着かなかった。


「アイスコーヒーで大丈夫?」

「あ、はい!」

大野さんはアイスコーヒーを2つ注文した。

店員さんが立ち去ると、小声で

「唯さん、あの後もお店来てないの」

その言葉に僕はがっかりした。

「…そうなんですか」


「本当はお客さまのこと、
こうやって勝手に話すのはダメだけど…
小日向くんは特例ね!」

「え?あ、ありがとうございます。
…でも、何でですか?」

「もーう、鈍いなぁ!
○○西高OGとして、
小日向くんを応援するってこと!」

「!」

なるほど。大野さんは
僕と同じ高校の卒業生で、そのよしみで
こうして僕をお客としてじゃなく
後輩として接してくれたのだった。

「ありがとうございます!でも…」

「でも?」

「ご期待には添えないと思います」

僕は苦笑いで答える。

「僕はただの高校生で。
唯さんのこと、何にも知らないんです。
おまけに受験もあるし…」

情けないけど、大野さんには
素直に話すべきだと僕は思った。

「…」


「お待たせいたしました」

注文したアイスコーヒーが運ばれてきた。

大野さんはそのまま一口飲んで、

「苦いね」

そう呟いた。

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