テキストサイズ

イジワルな彼女。

第2章 歩-アユム-


「また今度誘ってやっからさ!」

そう亮太が笑って僕を見たが、
その目はすぐにスマホに向けられた。

「…」

返す言葉を探すのが面倒になった僕は、
そのままラーメン屋で亮太と別れた。


スマホを見ると、
母親からメッセージが届いていた。

[まだ予備校?
帰りにスーパーで牛乳買ってきて?]

[了解]

本当はメッセージの返事も面倒だったが、
牛乳くらいなら仕方ない。

電車に揺られ帰路につく。

まだちょっと小腹がすいていた僕は、
駅前のコンビニに寄った。


気晴らしに雑誌を立ち読みしていると、
コンビニの窓に雨粒がつき始めていた。

傘を持っていない僕は、
本降りになる前に帰ろうとコンビニを出た。

少し歩くと、騒がしい声が聞こえてきた。
カップルが何やら言い争っている。

小雨が降る中、周りの人は知らないふりで
急ぎ足でその場を離れていった。

僕も同じように足早にカップルの横を
通り過ぎようとした時だった。

一人の男性がカップルの女性に向かって

「大丈夫?怪我してない?」

そう声を掛けた。

その声で、初めて僕は
カップルの女性の顔をちらっと見た。

小さな顔に目鼻立ちの整った美人。
彼女の瞳に僕は吸い込まれるように、
カップルと男性のすぐ近くで
思わず立ち止まってしまっていた。

(まずい)そう思った瞬間だった。

「アユム!いま帰り?
雨強くなる前に一緒に帰ろ?」

声の主は彼女。
彼女が話しかけた相手は、
なんと僕だった。

先に彼女に声を掛けた男性は
少しばつが悪そうな顔をしたが、すぐに

「弟さん!よかった、気をつけて帰ってね」

そう爽やかでスマートな対応をし、
その場から立ち去った。


呆気にとられたままの僕をよそ目に
彼女は僕の手をとると、
そのまま僕の自宅とは反対方向へ
歩き始めてしまった。

強引だったけど、女性の力だから
その手を振り払おうと思えば
簡単に振り払えた。

でも僕は、
黙って彼女に連れて行かれる道を選んだ。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ