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キラキラ

第30章 hungry 2


『……櫻井先輩?二宮です』

大野さんに見惚れていた俺は、電話口から聞こえた、か細い声に、あわててスマホを持ち直した。


「おう……お疲れ」

『あの……今日は、俺……不甲斐なくてすみませんでした』

「……いや、そんなお前が悪いとか思ってねーし。逆によくやってくれたと思ってるよ?」

『……ありがとうこざいます』

「……また一緒に頑張ろうな」

『……はい』


言いながらチラチラ大野さんを見ると、大野さんは、フーフー言いながらカフェオレを飲んでいた。

すみません、と、ジェスチャーで謝ると、大野さんは、ううん……と首を振って、マグカップに顔をつけたまま、目だけで笑んだ。


『ってことだから』

再び、雅紀が電話口に出て、優しい声でまとめた。
俺は腕時計に目をおとした。

もう結構な時間なのに。

今まで、ずっと二人でいたのだろうか。



「……そんな、あいつのせいじゃねぇのにな」

『うん。……でも、なんかさ、体調管理に失敗したのが悔しかったみたいだよ』

「……そっか。まぁ、二宮に早く帰って寝ろって言っといて」

『うん』

「……おまえも、お疲れ」

『……翔ちゃんもね』


じゃあな、と言って電話を切り、振り返ると、大野さんは優しい顔で頬杖をついて俺を見てた。


「すみません、勝手にあがって」

「ううん、お帰り。試合……ダメだったの?」

「……はい。決勝までいったんですけど」

「そっか……残念だったね」

「でも、ベストは尽くしましたから……」

「ふふ……そう思える試合なら大丈夫」



大野さんは、冷めちゃったよ、とカフェオレを俺に勧めた。
猫舌だから、大丈夫です、と言ったら、おんなじ、と笑われた。


「……大野さんは?」

「んー。今日は学科試験だったんだけど。まあまあ……かな」

「……今日は?……って?」

「明日が実技なんだ」

「え?!」


明日も試験??!


「すっ……すみません!てっきり終わったのかと。俺、帰ります!」


ダメじゃん!俺!!


あわてて立ち上がろうとした腕を、大野さんが掴んだ。


「実技なんて、今さらやることないって。それより、櫻井としゃべってる方が気分転換になっていいんだけど。……だめ?」


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