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キラキラ

第29章 バースト7


出汁のきいた、翔特製の卵粥は、疲れきった体と心にじんわり染み込んでゆくようだった。

ふわふわのたまごは、翔の優しさそのものみたいで。

れんげで少しずつ崩して、大事に口に運ぶ。


「昨日は……おまえを早く連れて帰りたかったから、結局あいつらに少しお灸をすえて帰ってきただけなんだけどさ」


俺の様子をみながら、翔は、言葉を選ぶように、昨日の話をした。

思い出したくもない記憶に、一瞬息がつまりそうになったけれど、俯くことで隠した。

崩した卵を、さらにグチグチと小さく潰しながら、俺は小さく、うん、とうなずく。


「あいつらを警察につきだすことは、可能なんだけど……潤はどうしたい?」

「……」

「……警察がからんでくると、思い出したくないことや言いたくないことも、被害者として証言しないといけなくなるんだ。それでも……いいか?」


それは、事が大きくなるってことだよね……?


俺は、少し考えて首を振った。


だって……ウツミの車に自分から乗った。
なんで乗ったか、とかそのあたりを突っ込まれたら、困る……。


「言わなくて……いい」

「ほんとにか」

「……うん」


俺が出した答えを、翔は、きっと、受けた行為を説明したくないから、と捉えただろう。

それならそれでもいい。



「そーか…そんなら両腕くらい折っときゃ良かった」


残念そうにつぶやく翔に、俺はくすりと笑った。

しかし、翔の次の言葉に、心臓がぎゅっと縮こまる思いだった。


「でもさ……なんでおまえあんなとこにいたんだ?」

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