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キラキラ

第29章 バースト7



「お前を人殺しにはさせない!!」


同時に胸ぐらを強く掴みあげられ、怒鳴られた。

近い位置にある、智兄のそのギラギラした真剣な眼差し。

真っ赤にそまっていた目の前が、はっとクリアになった。


我にかえる。


俺の表情の変化に、智兄は、静かに体を離した。


……常々、智兄に言われていたこと。


チカラをむやみに使うな。
チカラを人に見られるな。
チカラで人を傷つけるな。



「…………ごめん」


ポツリといい、項垂れる。
智兄は、ホッとした顔になり、俺の頭をポンポンと叩いた。
そして、静かに顎を上向け、皮肉げに口角をあげる。


「……とりあえずこいつらは、このままにしとけ」


情けない格好で空中にプカプカ浮いてる男らは、自分の身に起こっていることが理解できないようで、呆然としている。

体が浮かぶ、なんて、常識ではあり得ない状況に、口もきけないようだ。

俺は、彼らを冷たく一瞥して、座敷に走った。

ピクリともしていないと思ったその裸体は、近くで見たら、小刻みに震えていた。


「……潤っ」


潤は、力ない目で座敷に横たわっていた。

顔には涙のあと。

やるせない思いで、そばまでにじり寄り、潤の頬を両手でそっと包んだ。


「……すぐ帰ろう」


低く囁くと、潤は、ぼんやりした表情で、俺を見た。

智兄が、自分が着ていたスーツを脱ぎ、潤の体にそっとかけてくれた。


「…………しょ……う…」


掠れた声。


「遅くなってごめん」


……間に合わなくて……ごめん。


スーツからはみでた綺麗な太股に、体液がいくつも筋をつくってる。

唇をかみしめて我慢したのか、口の端は切れていて。
そこいらじゅう、嫌な匂いが充満してて……。


「…………っ」



これは立派な犯罪だ。


「どうする。あいつら警察につきだすか」


智兄が、傍らから、潤の乱れた髪を整えてやりながら俺を見た。

しかしそれは、この状況を警察に説明するということで。
潤が襲われたことも説明するということで。

泣き寝入りはしたくない。
でも、当事者は騒ぎたくもないかもしれない。


……躊躇する。


「潤……どうしたい」


俺は潤をのぞきこみ、……ふと違和感に気づく。
いつまでもぼんやりしている潤の呼気から、アルコールの香りがするのだ。

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