
キラキラ
第29章 バースト7
智兄との通話を、いったん切り、そのまますぐ潤にもう一度電話をかける。
だが、やはり留守電に切り替わる。
イライラしながら、リダイヤルを繰り返しタップした。
……潤のスマホには、きっと恐ろしい数の俺からの着信履歴が残るに違いない。
ちらりと、ソファーをみたら、眉間にしわをよせ目を閉じたかずが、相葉くんに肩を抱かれていた。
繰り返し呼びかけてくれているのだろう。
そのとき、ガチャンと音がしたかと思うと、智兄が風のようにリビングに飛び込んできた。
その表情は極めて冷静。
智兄は顎でベランダを指した。
「出ろ」
頷いた俺はスマホをポケットにつっこんで、ガラス扉をがらりとあけ、手すりに飛び乗った。
ふわりと生暖かい空気が、足元から身を包んだ。
端から見たら身投げでもするような光景だ。
ふっと後ろを振り返ったら、智兄は力強く頷いた。
「智兄」
「オレも行く。飛べ!」
続いて、手すりに飛び乗った智兄と、夜の空に身体を投げ出した。
同時に、チカラを全開にして、二人で夜空高く飛び上がる。
地上の人間には絶対に見えない位置まで上がり、智兄を振り返ると、智兄は目を閉じたまま東を指した。
「千葉方面」
「了解」
いまだかつてないくらいのスピードで飛ぶ。
飛行機やヘリコプターに発見されないようにだけ注意をはらい、俺たちは、夜空を急いだ。
やがて、飛びながら、智兄が、苦しそうな顔でオレを見た。
「翔……」
「なに」
「ちょっと……潤やばいぞ」
「……」
「相手殺すなよ」
「……わかんねー」
ぎゅうっと心臓のあたりのTシャツをつかむ。
相手がいて。
いやだ、と朦朧とつぶやく潤がいて。
智兄に殺すなよ、と言われて。
やばいぞ、と……言われて。
「…………っ」
最悪の光景を想像し、一瞬吐きそうになった。
風をきって飛びながら、怒りに震える体をとめることができなかった。
