
キラキラ
第29章 バースト7
「まさか、俺の車に乗ってくれるなんて。嬉しいなぁ」
弾むような声でステアリングをきりながら、ウツミはご機嫌だ。
この際、あの場から連れ去ってくれるなら誰でも良かった俺は、泣きそうな顔を見られないように、窓の外をひたすら眺める。
頭を占めるのはさっきの翔の姿。
後ろ向きな考えばかりしてはいけないとは思うが。
もしも、あんな可愛らしい子が告白してきたら、翔はどうするかな。
俺が、いるって断ってくれるかな。
……それはイコール恋人が男だと言うこと。
そんなこと言ってくれるかな。
頭をよぎるのは、ぐるぐるそんなことばかり。
我ながら女々しいとは分かっているんだけど。
ウツミになんか喋りかけられてるのを、上の空で相づちをうっていたら、自動的に、目的地が決められていたらしく。
30分ほど車で走り、郊外にある小さな小料理屋の前で停まった。
あたりは日も暮れて、闇に包まれ始めてる。
ここはいったいどのあたりなのだろう、と思った。
「さ、ついたよ。おりて」
「……」
「友達の実家がやってる店なんだ」
我にかえれば、こいつと食事みたいな展開になってることに気がつき、のこのこついてきたことに後悔した。
まあ……適当にあしらって早く帰ろう……。
なんなら跳べばいいし。
「さ、早く」
そう決めた俺は、ウツミに促されるままに、車を降り、店にはいった。
「いらっしゃいませ……」
そこは、まあまあ若い男性従業員が店番をしていた。
他に客はおらず、座敷とテーブル席が4つずつくらいのこぢんまりした店内。
照明は絞られており、雰囲気はいいのだろうが、野郎二人でくるようなとこじゃない。
落ち着かない気持ちで、座敷に通された。
ちょっとトイレ、と席をはずすウツミを横目に、俺はだされた水をコクコク飲んだ。
「…………っ?」
瞬間、喉がカッと焼けるように熱くなる。
同時に、胃を握りつぶされたような変な感覚。
……なに、これ……
口を覆い、震える手でグラスを見つめた。
……これ、水じゃねー……
カンカンカンと、脳みそが警鐘をならす。
ぐらりと視界がゆれた。
