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キラキラ

第29章 バースト7



とぼとぼと夕暮れの街を歩いた。

息苦しくて、息苦しくて。
何度も深呼吸しながら、歩いた。


雅紀の言ってることは……正しい。

翔はいつでも本気で俺を見てくれてる。
真っ直ぐに俺を見てくれてる。

なのに、俺らの関係を胸を張って言えないのは、翔に迷惑がかかるかも、なんていうのはただの偽善で。

実は俺自身に理由があるかもしれない、と思えてきた。

だって……俺、自信がないんだ。

あんなに顔がよくて頭がよくて、家事もなんでもこなせて。性格がいい翔の隣に、俺はいていいの?っていつでも不安だから。

翔は、これから先も、大学で、バイトで、可愛らしい女の子とたくさん出会うだろう。

その子たちに俺は勝てるの……?

俺は……翔を好きでいていいの……?


鼻をすすりながら、歩き続けていると、いつのまにやら繁華街にでた。

雑踏のなか、ぼんやりと歩いた。

制服だから、あんまり遅くまで歩いてたら、補導されちまうかな……。

そんなことを思っていたら。

人混みのなかから、まるでそこだけ浮かび上がるように、目に入ってきた光景に息をのんだ。

正面から翔が、女の子と歩いてくる。
楽しそうに会話を交わし、笑いあってる。
女の子の手が、翔の左手にかかり。
彼らはショッピングモールに姿を消した。

……俺は、その場に立ちすくんでしまった。

可愛い子だった。
髪が長くて、華奢で。
小さくて。

ああ……翔の趣味っぽいな、なんて。思ってしまう。

俺と正反対じゃん。


「…………」


……涙で目の前が霞んだ。

…こんなタイミングでこんなん、見せられたら、俺。


感情が揺れ始める。


ちくしょう。
悔しいけど、やっぱり、翔の隣には女の子が似合うじゃん……。


人混みでいきなり泣き出すことも。
ましてや跳ぶこともできないから。

俺は懸命に耐えた。

下を向いたまま、よろよろ歩き出したら、車道から、パパっとクラクションが鳴った。

目を向けると、助手席の窓があいて……ウツミが運転席から叫んできた。


「松本くん。飯行こう」


その瞬間、何もかもがどうでもよくなった。

俺は、ぐちゃぐちゃな顔を周りに見られたくない、ただそれだけの理由で。

ウツミの車に乗り込んだ。


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