
キラキラ
第29章 バースト7
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そいつは、ウツミ、と名乗った。
考えといて、と電話番号と、LINEのIDを走り書きしたメモをパンツのポケットに突っ込まれ、歩き去る後ろ姿を、呆然と見送るしかなかった。
自室のベッドの上で、力なく横たわり、スーパーでの出来事を反芻する。
「……どうしよう」
考えれば考えるほど、頭が痛くなる。
後悔しかない。
その場を去りたかったからなんて言い訳にならない。
俺……翔との関係を否定してしまった。
そんな自分が信じられなくて。
こんなにも好きで好きでたまらないのに。
ウツミに、胸を張って関係を肯定できなかった。
だって……思ったんだ。
翔との関係が周りに露見したとして。
少なくとも俺は、全然かまわないと思ってる。
でも、翔は?
好きだ、と。愛してる、と囁いてくれてる気持ちは、真実だと信じてる。
だけど、周りに関係を知られてもそれを言い続けてくれる?
昔にくらべ、俺たちのような少数派な人間にも、大分優しい世の中にはなってるけど。
偏見の目や好奇な目はゼロではないだろう。
……それでも、翔は、俺を好きだと言ってくれるだろうか?
「……っ」
そんな俺の揺れる思いを撃つように、手元のスマホがなる。
相手は…かず。
震える手でスワイプして、冷たい機械を耳にあてた。
「……もしもし」
『あ、潤くん?こっちに眼鏡忘れてるよ』
「あー…」
コンタクトしたまま寝てしまったから、かけることなかったからだ。
カバンから出して、ベッドサイドに置いてそのままにしてた。
『取りに来る?』
瞬間移動の能力をもつ俺は、いつもならそんなこと造作もないこと。
でも、このぐちゃぐちゃな気持ちのままで、テレパスの能力をもつかずの前に立つ勇気がなかった。
あいつは軽々しく心を読んでこないと分かってはいるが、どんなはずみで、この気持ちが流れ出るかわからない。
だから…
「ごめん…ちょっと頭痛くて。チカラ使えそうにないから、そのままそっちおいといて」
嘘をついた。
『え。大丈夫?』
「うん…多分」
『そっかぁ…了解。具合よくなったら取りにおいで。お大事にね』
「…サンキュ」
心配してくれる心が、しみる。
電話をきったら、何故だか涙が滲んだ。
