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キラキラ

第27章 かげろう ~バースト6~



「……ただいま」


潤くんの笑顔に見送られ、小さな声と共に、大野家の扉をあけた。

すると、奥のリビングの扉がそっと開き、翔さんの姿がみえた。


「おかえり、かず」


柔らかな笑顔。


一瞬また泣きそうになりながら、トコトコとリビングに入れば、ソファーに座っていた智さんが、くるっと首だけこっちにむけて、ふわりと笑った。


「おかえり……どうだった?」

「うん……話……してきた」


俺は、頷いて智さんに歩み寄った。

部屋着でくつろいでる智さんの目の前には、緑茶のはいったカップ。


「…………」


……潤くんの言葉がよみがえる。

いつもこの時間は晩酌してるのに。
俺がSOSの連絡したら、いつでも車が出せるようにしていてくれたのだろうか、と思ってしまう。

そうだね。
あんなに会いたくないって渋っていた人に会いにいったんだものね。

でも。


「…………あのね」


聞いて。

俺が、歩んでみたい未来。
そのための進路。
母さんにきちんと、話せたことを、この人たちにも聞いてもらいたい。

穏やかな表情で、ひとつひとつ頷いてくれる、懐の深い人たちに。



「……そうか。心理学を」

「うん。勉強したい。できたら翔さんと同じ大学に行きたいと思ってるんだ」

「そうか」

「母さんは、頑張りなさい……って」

「うん……そうか」


だからね。


「で、ひとつお願いがあるんだ」

俺は、智さんの深い瞳を真っ直ぐに見据えた。


二年の間、居候させてもらった大野家。
出会いは、半ば拾ってもらったようなきっかけであったにもかかわらず、この兄弟は、まるで家族のように大事に接してくれた。

俺が能力者であることを、見抜いた智さん。
行き場のない俺を、きちんとした条件のもと、受け入れてくれた父親みたいな人。

俺のイエローのマグカップを静かにテーブルに置いてくれた翔さん。
このりんごの香りは…… カモミールだね。

不安になったり、眠れなくて不安定だったころ、よく翔さんが作ってくれたこの紅茶は、優しい気分になって落ち着ける。

いつしか、母さんが作ってくれていたミルクティーよりも、翔さんのいれてくれた紅茶の方が好きになってた。

翔さんの心遣いにはいつも感謝してるよ。


そんな二人と、これからも……


「……この先も。ここにおいてもらえませんか」


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