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キラキラ

第27章 かげろう ~バースト6~


「元気にしていた?」

明るい光がさしこむリビング。

ソファーに座った俺に、ミルクティーの入ったマグカップを渡してくれながら、母さんは柔らかく笑んだ。
アイボリーのこのカップは、俺のだ。


「……うん」


母さんの顔を真っ直ぐに見れなくて。
俺はうつむいて、カップを両手で包み込んだ。


部屋のレイアウトは二年前のまま。
俺が使っていたゲームとか、読んでいた雑誌とか。
まるで昨日までここですごしていたかのように、なにひとつ変わっていない部屋に少なからず驚く。

そんな俺に気づいたのか、母さんは、ふふっと笑って。

「何もかも、かずがいなくなった時のままよ。あなたの部屋もそのままにしてある」

「……」

「大野くんに聞いたわ。…ごめんね。かず。母さんのせいね」


母さんはそういって、少し声を震わせた。


酒乱の父は、あれから酒を絶ったということだ。
俺が家出をした理由を、智さんは、両親に包み隠さず伝えていたらしく。


「ごめんね。辛かったね…ごめんね」


言って、涙をおとす母親を、俺はじっと見つめた。
もっと冷ややかな思いでこの人に対峙すると思っていたけれど、思いの外、引き摺られてる自分に戸惑う。
チカラを使って、本当の気持ちの真意を試すことも可能だけど、そんな必要はないように思えた。

コク…とミルクティーを飲んだ。
俺が大好きだった茶葉の香り。
俺があの頃好きだった甘さ。


今は、翔さんがいれてくれるノンシュガーの紅茶に慣れたせいか、甘ったるく感じるけれど。


「もう…いいよ」


不思議だった。
氷が溶けるように、頑なな気持ちが柔らかくなっていくのがわかった。

母さんが微笑んで、うん、と頷いた。
俺も…笑えた。


「母さん」

「…なあに?」

「お願いがあるんだ」


俺は、かねてから考えていたことを、母に話した。

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