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キラキラ

第27章 かげろう ~バースト6~


「……ついていってやるの?」

「……え?…俺が?」


ぽつりと聞いた俺に、智兄は、びっくりしたように目を丸くした。

心外だという反応に、俺も逆にびっくりする。

智兄は、かずに甘いイメージだから、見守りに行くんじゃないかなって、思ったけど…違う?
ひょっとしてそれは過保護?


……案の定、智兄は苦笑いして首をふるふるふった。


「…まさか。行かねぇよ」

「……そう」

「あいつも男だ。そういうことは一人でさせないと駄目だ」

「……そうか…そうだね」


甘いのは、俺か。
弟のように、思っているかずを、つい甘やかしてしまうのは俺も同じだな。

逆に、智兄は、やはり兄貴だなと、思う。
こういうときの突き放しかたは、いっそ気持ちがいい。

そう告げると、智兄は、

「社会人なめんなよ?未成年」

と、鼻を膨らませた。
…うん、と頷いて俺はぬるくなったコーヒーをすすった。


そうだ。俺もまだ自分で生活できない未成年。

かずの、少し泣きそうな瞳が脳裏に浮かんだ。

俺は、唇をかんで、祈るように目を閉じた。

……頑張れ、かず。
正念場だよ。

俺たちは、外から見守ることしかできない。
でも、おまえが決めたことは、全力で応援するから。



ふと思う。


「……じゃあ、かずがこの家を出る可能性もあるんだね」

「かずがそれを望むならな」


智兄は、淡々と答えた。
俺は、複雑な思いでうん…と言った。


……それは…寂しいな。


俺は、手にしてるマグカップをぎゅっと握りしめた。

カチカチ…と時計の針の音だけが妙に響く静かなリビング。


俺が黙ったものだから、智兄が、ふっと笑った。


「…寂しいって顔に書いてあるぞ」

「分かる?」


智兄はなんでもお見通しだ。


「兄弟みたいに過ごしてきたからさ…もう、かずがいなくなることが考えられなくてさ」

「…まあ、いなくなるって決まったわけじゃない。あいつが、ここに残ることを望むなら、別に何もかわりはしないさ」

「……そうか」


でも、なんとなく感じる。

かずの気持ちの整理がつけば、ここを出て自宅に帰る可能性は高い。

何より、母親がそれを望んでいるらしいから…。


「…俺たちは、とりあえず、見守るしかない」


智兄が優しく呟いた。

俺は、うん、と頷いた。

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