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キラキラ

第27章 かげろう ~バースト6~


ゆったり入ってきた智さんは、フローリングの床においてる大きなビーズクッションに、よいしょ、と腰かけた。


なんだろう…


俺は、椅子に座ったまま智さんを黙って見つめた。

智さんは、にっこり笑って、鼻を少しこすった。
それは、言いづらいことや、少し困ったときにする智さんの癖。

とたんに、なんだか胸のうちがもやもやしてくる。


俺…なんかしたっけ…


ここ最近の自分の振る舞いに、記憶をめぐらしかけたとき、智さんが、静かに口を開いた。



「…お母さんからね、連絡があったんだ」

「……」

「進路のことで」


俺は、膝においていた手のひらをぎゅっと握った。

…心臓がすごい勢いで鳴り出した。

それは、いつかは、考えないといけない、と思いながらも考えたくなくて、先延ばしにしていた問題。

だけど、よりにもよって、母親からコンタクトをとってくるなど、予想もしていなかった。

俺は、動揺しながら、「…うん」と、返事をする。

智さんは、気遣うような目で、俺をみつめた。


「……一度話がしたいから、家に帰ってきてほしいそうだよ」

「……」

「かず…?」

「あ……うん。分かった」


このままではいられないのはわかっている。
そもそも、大野家は、家出した俺を一時的に受け入れてくれているにすぎない。

所詮は他人だもの。居候だもの。
いつかは出ていかないといけなくて。

俺は…やはり卒業したら、家にもどらないと駄目だろうか。

ねえ、智さん。
すごくこの場所が好きなんだ。
このままここにいたいって言っちゃダメかな?


ヤバい…泣きそう。


「……かず?大丈夫か?」


押し黙った俺に、智さんが心配そうに声をかけてくれた。
俺は、ふるふると首をふり、大丈夫、と笑んだ。


「…近々…帰ってみるよ」


二年間会っていないが、会わざるをえないな。

俺が、大野家で居候生活をしていることを黙って見守ってる、あの両親に。


「そうか」

「あの…智さん」


でもさ…。


「ん?」

「…ううん。なんでもない」

「…日にち決めたら教えてくれ。お母さんに連絡しとくから」

「うん。ありがとう」


智さんが部屋をでていく。


このまま、ここにおいてほしい。


……言えない。


そのかわりに。我慢していた涙がひとつ落ちた。


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